部活はあっという間に終わってしまった。

ミーティングの為に早めに切り上げるって言ってたっけ。
だが、いつもの時間より30分早いだけだ。
時間が過ぎるのがよくわかんないくらいぼんやりしていたようだ。
やっぱり、帰りにケーキ買って帰ってやる。ホールの一番でかいやつ。

部室に入ると、椅子が十分にない部室でみんな適当なところに座っていた。(いつものことである)
私もとりあえず座るところを探し、みかん箱の上をゲットした。つぶれないよね…。

ミーティング中も私は上の空。
帰ったらまずなにしようかな。
家族はたぶんおぼえてるよな。前日に誕生日プレゼントせがんだし。
もし覚えてなかったらさすがに殴ってやる。

そんな事を妄想していると、隣に座っている千歳と目が合った。…と思った瞬間、目をそらされた。
物騒なことを考えていたからものすごい顔になってたかもしれない。
ごめん千歳。


いや、それよりもうここで
「なにか忘れていることないか?」
と高らかと言ってしまいたい。

こころのもやもやをはらしたい。
なんか、自分が皆に隠し事をしているみたいに思えてくる。

もういっそ、早く帰りたい。


「ほんなら、ミーティングは以上や。」


心の念が通じたのか、タイミングよくミーティングが終わったようだ。
ぶっちゃけ、ぜんぜん聞いてなかった。

もう、さっさと帰って一人でケーキ貪ろう。
あ、心で泣いてる自分にもだから二人でだな。

早く帰ろうと、足早に部室を出ようとしたら金ちゃんに手を引かれた。


「終わったで名前!はよ!」

「え、なんや金ちゃん?」


金ちゃんは私の手を引くと、私より先に部室をでて私を外に連れ出した。


「ほら!皆もはよぅ!ワイもう待てへんわ!」


金ちゃんはなにやら皆まで部室から引っ張り出す。
私の手は握ったままだ。


「金ちゃん?一体なんなん?早く帰りたいんやけど…」


そこまで言った私の声は、その場に不釣合いな音にかき消された。

破裂音?

いや、
花火?


いま引っ張りだされた部室の方を振り返ると、部室の真上に花火が広がっていた。

冬の空。まだちょっと明るい、日の落ちた空に花火が咲いている。


「誕生日おめでとう」

「え…」


あまりの寂しさに幻聴まで聞こえてきてしまったんだろうか。
花火から目線を外して振り替えると、皆が笑顔で迎えてくれていた。


「ビックリしたか?みんなからのプレゼントやで!」

「サプライズっちゅーやつや」

「金ちゃんが口を滑らせそうで困ったばい」


夢だろうか?
皆が祝ってくれてる。
サプライズだって。


「科学部の奴らが花火つくっとって、ちょっと教えてもらってたくさん作ってみたんや」


気付くと、横に白石がいた。
「なかなかうまいもんやろ」と、言って笑いかけてきた。

その笑顔は眩しすぎるぐらいで……




「え…ど、どないしたんや!?」

「あー!白石何泣かせてんのや!」


いつの間にか涙が溢れていた。

皆知ってた。私の誕生日。

嬉しさと自分の間抜けさやら恥ずかしさやらでどうしたらわかんない。
涙だけが出てきた。


「皆から祝ってもろたのに何泣いてんスか。ダサいッスよ。」


言葉とは裏腹にタオルを押し付けてくる光。このツンデレ。


「な、なんや?花火苦手とかだったんか?」


あわてて近づいてくる謙也。へんな心配しすぎだよヘタレ。


「せっかく誕生日なんやから泣いたらあかんで!
ほら、手持ちの花火もあるから皆で一緒にやろーや!」


金ちゃんが手持ちの花火をもってはしゃいでる。
校内でいいのかな。


「泣かんと、笑うとよかよ」


千歳が頭をなでてくれた。


「…うん。ごめんね。みんなありがとう」
 「さて、片したらみんな帰るで。オサムちゃんが誤魔化してくれとる間にな。」

「え?オサムちゃん?」

「あぁ。オサムちゃんがほかの先生誤魔化してくれてるんや」


「え…まさか無許可で」

「そや」


校舎を振り替えると、ざわざわと生徒と教師が窓から覗いてる。
え、ヤバくね?


「逃げたモン勝ちや!」


脱兎の如く走り出す小春ちゃんとユウジ。


「俺は絶対捕まらんで!」


その二人をあっという間に抜いてしまうスピードスター。


「場所考えた方がええって言うたのに…」


ぼやきながら走る光。


「逃げた方がよかね。」


かるーく駆け足で逃げる千歳。
この状況を楽しんでないか?


「片付けは任せなはれ」


校舎裏の打ち上げ花火を片付けに走る師範と、あれ、いつの間に副部長も?


「ほら、早ぅ名前も行くで!」


後ろを振り返りながら駆け出す金ちゃん。


「ま、待ってよ…!」

「名前!」


走り出そうとした足は、後からの白石の呼び声に止められた。


「白石も早く逃げないと…」


そういって振り返ろうとした瞬間、何かに目の前を遮られた。

え?何これ?
あったかい……

もしかして…抱きつかれて…!?


「誕生日、おめでとさん」


間近で囁かれた。

間近で囁かれた。
(大切な事なので二度言いました。)

え、な、なにこのシチュエーション…!!


「本当は一番に祝ってやりたかったんやけどなぁ…。皆がサプライズしたいって言うとったから。
だから、一番最後に祝ったる!」


そう言って体を離すと、真っ直ぐ見つめられる。
そして、私の手を取って、プレゼントであろう箱の包みを手に乗せた。



「好きやで」





だからその顔は反則だってば。








END.


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小石川は、部室裏で花火に点火してくれてたんですよ。

大好きな友人に捧げます!


by 人間&緋乃

 


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