「おい」


試しに俺はもう一度それに声を掛けてみたが、人間でないなら当然返事はない。その人間の「カンショウヨウ」に作られた、人形だろう。

ぼろぼろに擦り切れた、淡い桃色のスカートには細かい刺繍がいくつも見える。壊れて唄えなくなってしまったか、踊れなくなってしまったのかもしれない。人間の役に立たなくなって捨てられた確立、100%。

しかしここに置いておくのは忍びない上に、今俺は退屈だった。今というか、いつも退屈だ。まあそんな事よりも、俺はその人形をこれ以上壊れないようにそっと抱き抱える。小さいし、思ったよりも軽い。


「直している間は暇つぶしが出来そうだ」


以前、怪我をした小鹿を手当てした時よりも長引けば、あの時よりも暇にならなくて済むな。







「…こんなものだろうか」


修理は案外簡単だった。人形の破損部分はやはり音声再生機能で、少しの道具と部品があれば簡単に直せるもの。人間はこんな簡単な修理すらも出来ないのか、しないのか…俺にはよく分からない事だ。

雨でショートしたのであろう回路を取り替えて、繋げる。上手く動けば少し嬉しいかもしれない。暇つぶし計画があまり上手くいかなかったので、人形の顔の亀裂を直してみよう。何か溶接の出来るものを探さなくては。


人形を寝かせていた台から離れて工具を探していると、視線を感じたのでそちらを向いた。先程まで目を閉じていた人形の目が開いていて、硝子の瞳に俺が映りこんでいる。


「誰?」


少しノイズ混じりの声が発せられて、(多分)俺も人形も驚いた顔をした。人形が動こうと脚を動かしたので、俺は駆け寄ってそれを制した。まだ脚の溶接が完全に終わっていないので、歩けば忽ち脚が取れてしまうだろう。


「お医者様?」
「少し違う。俺は医者ではないが、お前を直している最中だ」
「私の、声、治してくれたのは、誰?」
「俺だ」
「じゃあ、お医者様」


それだけ喋ると、人形は再び瞼を閉じて動かなくなった。機械の故障は無いので、人形にも休息が必要なのかとまた驚かされた。そもそも、人形にこれだけ理解と会話が出来る事実にも脱帽だ。人間の技術は案外素晴らしいのかもしれない。






Etoile de lappareil de la machine





END.



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