※男の子主人公
「この、馬鹿兄」
急に目の前が明るくなったと思ったら、目の前に精市がいた。体が痛くてあちこち動かない。っていうかここ何処だ。俺の部屋じゃない。
「心配かけさせないでよ」
なあ精市、ちょっと泣く前に状況説明してくんね?ここ何処?おーい精市、おーい…無視か?…あーあ、泣くなよ。折角綺麗な顔なのに涙でぐちゃぐちゃ。
「どこか痛む?今看護師さん呼んだから」
いやそんなに激しい痛みじゃない、と伝えたかったが、声が思ったように出ない。だから俺は必死に首を左右に動かしてみた。あ、首痛い。もしかしてさっきの精市呼んだ声も聞こえてなかったのかな。
「っていうかこの状況把握してる?兄さん、車に撥ねられたんだよ」
えっマジで?なんか漫画とかドラマみてぇ。っていうか撥ねられたのって意外とダメージあるんだな。なんか意識し出したら体が…あっ痛い、超痛い。なにこれ精市助けて。
「母さんにも連絡したから、…ちょっと、なにその顔、痛いの?大丈夫?」
お前ちょっと笑ってんじゃねーよ。泣いたから鼻赤いぞ泣き虫。
その後は看護師さんがバタバタ入って来てなんか「痛いですかー」とか聞かれたり(超痛いって言った)、母さんが「この馬鹿息子」って言って泣き出したりでてんや。
母さんごめん、車に撥ねられたって事しか知らないんだけどさ、何処でどう撥ねられたの俺。超痛い。もう何回痛いって言ったかわかんねぇ。
意識を取り戻した俺は、それからリハビリやら診察で入院生活を過ごしていた。病院食味薄すぎだろ…ツナとか猫缶かよこれ…ああポテチ食いてぇ…
食事にケチをつけつつあっという間に1ヶ月が経過し、その日も初夏の暖かさと精市の動かす鉛筆の音を子守唄にしていた。…が、
「あ」
「ん?どうしたの兄さん」
「思い出した」
「え?」
「あー…いや、なんでもねぇ」
よりによって精市がいる時に思い出してしまった。俺、精市の誕生日プレゼント買いに行った時に事故ったんだ。プレゼント買った帰りに、確か信号待ちしてたら背後からでっけぇ音聞こえて振り返ったら……ああ、こっから記憶ねぇや。
ベッドの横で花壇のスケッチをしていた精市は、俺を不思議そうに見ていたが、ふと思いついたように口を開いた。
「思い出したの?何処で事故に遭ったか」
「あー…うん、まあ」
「俺のためだったんでしょう」
「え、ちょ…知ってたのかよ」
「これ警察の人から渡された時は、俺が死ぬかと思った」
精市が自分のジーパンのポケットから取り出したのは、俺があの時買ったグリップテープ。
「俺の誕生日だから、買いに行ったんだろ?」
「いや、それ俺が使おうとしてたやつ」
「兄さんテニスしないのに?」
「…」
「遺品にならなくて良かった」
「…お前は気にしなくていいんだからな」
俺がそう言うと、精市は目を見開いてまた俺を見た。どうせコイツの事だから、自分のせいだと思ってたんだろう。開けっ放しの窓からざぁ、と風が入って来て、精市の柔らかそうな髪を浚う。精市は髪の毛を直しながら、次は笑顔になっていた。
「ありがとう」
「…おう」
「これ、使わないで飾っておく」
「いやいや使えよ、意味ないだろそれじゃ」
「あはは、じゃあ全国大会の時の願掛けに巻こうかなぁ」
「あー大会見に行けるかな」
「リハビリ頑張って。…って、これ俺が入院中に兄さんに言われた台詞だ」
グリップテープを嬉しそうに撫でている精市につられて、俺も笑う。精市の誕生日を騒がせたのは俺だったから、謝ろうかと思ってたけど止めた。
御免と有難う
御免。全国、勝てなかった。
プレゼント、有難う。
END.
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企画:彼と私は家族ですさま
へ提出させて頂きました。
お誕生日とドッキング!