「いっ…!!――…たぁ…」





やってしまった…
調理実習中、包丁を滑らせた。
レモン切ってたから超痛い!!!!!
クソッ!なんであのレモンあんなにコロコロ転がるんだよ!

急いで水で流すけど、思った以上にそこまで深くは切れてはいない様だったが、血は結構出ていた。
同じ班の子が「大丈夫?」と口々に心配してくれるけど、ちょっとだし、レモンのせいで痛いだけだから全然大丈夫。
初めて包丁でなんて切ったからびっくりしたけど…。

とりあえず水で流して、適当にガーゼ貼っとけばいいや。と、先生に断って保健室に行こうとしたとこを柳に呼び止められた。
チッ…。柳は余計に心配するから耳に入る前に逃げようとしたのに…。流石地獄耳……。


「切ったのか?」


手を取られ、直ぐ様自分のハンカチを迷うことなく押し当ててくる。
綺麗なハンカチなのに、血なんて付けたら取れないよ。


「薄皮だけだよ。血出てるけどホント浅いから大丈夫」


私が保健室行ってくるね、と逃げようとするが、手を離してくれない。


「適当にガーゼ貼ってもらって来るから」

「今日は保健の先生は居ないだろう」


あ、忘れてた。二年の研修だかに引率してて居ないんだっけ。朝のホームルームで言ってたな…。


「だけどガーゼ貼るぐらいだし一人でも出来るって」

「片手ではやりにくいだろう」

「貼るだけだし」

「やってやる」


柳の「やってやる」は優しさじゃなくて抑圧がかかった「やらせろ」にしか聞こえない。
そこまで大丈夫か?痛くないか?と心配して言われる訳じゃないけど、柳は目線が解らないなかで無言で視線を向けて来るから咎められてる気分になって苦手だ。
妄想と言ってしまえば妄想なんだけど…。

とりあえず有無も言わさず手を引かれて保健室に連行された。
ハンカチ越しに血が滲んできてる。もう痛くはないけど、こう見ると痛々しい。

座れと促されて柳と向かい合わせに座る。
消毒をして、ガーゼを宛てた上から包帯を見事な手際で巻いてくれる。
私は手当を受けながら、時計の秒針の音と柳が手当てする音しかしなくなった空間で、切った瞬間を思い出してた。

いつも母とご飯を作ってて使い慣れていて、怖いなんて思ったことがない包丁が、初めていきなり傷を付けた。
ぶっちゃけ、凄いびっくりしたし、指を切断しちゃったんじゃないかとか思ったけど、そんな事は一瞬で消えて、気丈に「平気だ」と回りに振る舞うのが先にでていた。
本当は、


「よし、終わったぞ。

…名前?」


本当は怖かった。

凄く怖かった。
今になって情けないぐらい手が震えてる。
そんな私を見てか、柳が頭を撫でてくれる。


「…違うよ。痛いんじゃないよ…。
本当は…怖くて……」


涙が溢れてきた。
皆に心配を掛けまいとしていたけど、思い返すと怖くてたまらなくて。


「指…切り落してたかもしれないと思ったら…怖くなって……」

「知っている」


ちゃんと解っている。と言って頭を撫でてくれる。
それ以上何も言わずにで優しさを与えてくれる柳に、私は涙が止まらなかった。
















END.

*************************

「お前の事なら把握している。だから大丈夫だ」



先日、私が軽い単身事故起こして、帰ってから安心感からボロ泣きしたって話。


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -