昔から人と競うことが大嫌いだった。椅子取りゲームも徒競走も読書感想文も「好きにやってくれ」と丸投げだった。

でも神様は大変不公平で、競争を嫌う私に惜しみなく何もかもが与えられた。徒競走で1等を取れる力も、読書感想文で表彰される力も、椅子取りゲームで相手を出し抜く力も。

周りは私を褒めてくれた。けど私はこんな能力全部いらなかった。だって周りと比べられる事が大嫌いなんだから。例え自分が競争の頂点に居たとしても、私は何も面白くなかった。

しかし物好きというのは少なからずいたようで、私に愛の告白をして来た男がいた。奴は正直整った顔をしていて、透き通った青い眼に甘い声色と生徒会長という肩書きを持っていた「何その漫画?」という様な男だ。

私は即座にその交際の申し出を断った。当たり前だ、だって


「私はアンタの競争に加わりたくないから」


そう私が言うと、男はその瞳をまん丸にした。だってこの男を狙っている女の数など用容易に想像出来る。何十、いや何百を超えるかもしれない。女の嫉妬・妬み・逆恨みが渦巻く色恋沙汰に自ら首を突っ込むだろうか、この私が。否、断じて否。


「面白い女じゃねーか」


男はニヤリと笑うと、私に近寄ってきた。仄かに甘いローズのような香りが漂う。男がパチンと指を鳴らせ執事のような出で立ちの男性が何かを男に手渡し、去っていく。あの人今まで何処にいたの。


「絶対にお前を俺様の女にしてやる」


そう言って男が手渡してきたのは、アドレスの書かれた紙切れだった。無造作に千切られた高そうなメモ用紙…こいつ金持ちか。尚更関わりたくない。


「お前、何が欲しいんだ?俺様の女になれば好きなものを好きなだけ手に入れる事だって可能なんだぞ」
「…別に。だから付き合えません。アドレスも受け取れません」
「アーン?お前のような教養があって美しい女なら、俺様の価値が直ぐに分かると思うんだがな」
「知ってますよ、跡部景吾さん。私、競争が嫌いなんです」


ぐい、とメモを押し返しても、男はただ面白そうに笑うだけだった。


「俺様を取り合って、他の雌猫に恨みを買うのが嫌なのか」
「ええー…そういう訳でも…いや、もうそれでいいです…って、ちょっと」


突然腕を掴まれて引き寄せられる。鼻先と鼻先がくっ付きそうな位置で男は囁いた。あ、ミントの香り。


「他の雌猫なんかに惑わされるな。俺様が愛するのはお前だけだ、名前」


徒競走が嫌い。読書感想文が嫌い。人と競う事が何より嫌いな自分が嫌いだった。しかし、男は私を愛していると言う。コイツは私の…


「私の何を知っているの?」
「何を知ってるかって?」


再び男が指を鳴らす。私の視界が明るくなるのと同時に、執事が恭しく羊皮紙を持って駆け寄ってきた。


「まずは家族構成か?それとも幼稚園時代に表彰された内容か?最近クレープ屋に寄って何のクレープを注文したかにするか?」


勢いよく羊皮紙が解かれて、長い長い私の歴史が地面に散らばった。私は最早男の存在が怖くなりつつある。


「俺様は争う事が好きだ。名前を手に入れる為なら何だってしてやろうじゃねーの。出し抜いてやるよ。お前を好いている他の男も、何もかも」


ああ、とんでもない男に目をつけられてしまった。










争いが嫌いな私と絶対王者








END.

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8粒←告白する前に跡部が食べたフリスクの数



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テーマ「人外ファンタジー」
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