※舞台は西洋風な感じ。

















とある森の中、その森の奥の小さなお家には、とても頭の良い男の人が住んでいました。太陽の光が嫌いで、いつも目を細めながら難しそうな本を読んで過ごしていたそうです。そして、誰も男の人の名前を知らない。彼の住む森をよく知る人はこう言いました。


「アイツは俺がうんと小さな頃からずっとあの森に住んでいる。それこそ俺の爺さんや曾爺さんが生まれる前から歳も取らずにずっとあのボロ小屋に住んでる化け物だ」と。


彼は人間ではありませんでした。小さな頃、人間に母親と共に森へ追いやられ、その母親が病気で死んでしまったのは今から数百年前。それから彼はずっと一人ぼっちです。

彼は人間を恨んでいるわけではありませんでした。それこそ、自分とは違う生き物と認識があるだけで、暴力を振るう事も干渉する事も今まで一度もありません。人間も彼を不気味に感じてはいるものの、未知の彼の力を恐れて何をした事もなかったので、彼はそこそこ平和でした。

その、そこそこな平和な日常の中、彼は不思議なものを森で見つけました。


「おい」


彼は自分の声を忘れかけていました。誰とも話さずに、誰かに話し掛けたのも数百年振りの行動です。なので、母親が死んだ時に泣きじゃくっていた幼かった自分の声との違いに些か驚いて、目を開きかけましたが、木漏れ日の眩しさに彼は目を再び閉じたのです。


「お前は誰だ?」


彼の問いかけに応える者はいませんでした。実際には、彼の目の前には確かにモノはあったのです。ですが、それはピクリとも動かずに湖の畔にうつ伏せになったまま。

彼はその不思議なモノに触れてみました。それは人の質感ではなく、彼は本で見たブリキのロボットを思い出しました。しかし、本で見たブリキのロボットとは違うそれの外見に首を捻って考えてみました。

暫く今まで読んだ本を思い返していたのですが、結局答えは出て来ません。彼がくしゃくしゃに絡まったソレの髪の毛を少し避けてやると、細い首に何かが書いてありました。



「娯楽用全自動舞踏人形」



動かないその人形の顔には、涙の跡のように亀裂が走っていました。








END.


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