「卒業しちゃったよー!」
「しちゃいましたねー」
「どうせ高校でも一緒だけどさ。3年組は」
「っていうか先輩、卒業生代表噛みまくりだったじゃないっスか!」
ダサッ!とお腹を抱えて笑う切原にチョークスリーパーをお見舞いしてやる。先程生まれたばかりの傷口に塩を塗りたくった罪は筋肉バスター並みの鉄槌を加えてやりたいところだが、生憎ここは公共の場だ。
「ぐぇっ!ギブギブギブ!」
「ふん、仕方ない。では今すぐあの列に並んでフィレオフィッシュを買って参れ。私は隅っこの席を確保しておく」
「イエッサー」
切原とよく来たこのハンバーガーショップも、最近はごたごたして全く来てなかったな。…しかし、卒業記念の食事会に私を抜擢するって幸村は何を考えているんだ。私も卒業生なのに「幹事が赤也だけじゃ不安だし」とか言って。ムカついたので切原にシェイクも奢らせよう。
そういえば幸村、さっきの卒業生代表挨拶で思いっきり噛んだ私を指差して笑ってたな。ムカつくので切原にポテトも奢らせよう。
「お待たせっス」
「あれ、切原なに食べるの」
「シェイクとポテトとアップルパイ」
「丁度良いじゃないの。お寄越し」
「ええっ!?先輩フィレオフィッシュって…!」
「さっき決めた」
「丸井先輩じゃないんスから…もー」
渋々シェイクとポテトを差し出してくる切原は、なんやかんや私に優しい。優越感。気分が良くなったのでポテトとシェイクは半分貰って半分は返す事にした。ポテトうまい。
「っていうかさ。いくら食事会の幹事だからって、こんな早く集まる必要あったの?」
「幸村部長に笑顔で早めに会場入ってて準備してねって言われて、先輩断れるんスか」
「無理」
「ですよね」
っていうか食事会前にこんなに食べちゃって大丈夫かな。と切原に聞くと、俺らドリンク注文とかできっと忙しいっスよ…絶望的な事を言われた。会場で冷え切った料理を食べるまでに時間が掛かりそうだから、今の内に食べておこう。
切原がシェイクをズズズ、と飲み干して、トレイをひとつに纏める。分別もするデビルなんて聞いた事ないよなーなんて考えながら、ありがとうとお礼をして店の外に出た。
「まだちょっと肌寒いっスね」
「うー、早く会場行かないと」
「…あれ、先輩のその台詞、俺どっかで聞いた」
「?」
「あー思い出した。今年の初詣だ」
「初詣?」
「そうそう。丸井先輩と仁王先輩が寒い寒いって文句言って到着が遅れたから、人ごった返してて」
「あはは、あったねーそんな事」
その時なんて真田には遅いって怒られるし、散々だったよ。柳には甘酒奢ってもらったけども。
「あれからもう2ヶ月っスかー」
「早かったね」
「俺、あの時なんて願掛けしたと思います?俺が高校行った時も、皆とテニス部で会えますようにってお願いしたんスよ。超健気じゃないっスか?」
「なにそれー超いい話じゃん」
「後輩の鏡って呼んでもいいんスよ!」
と、あははと笑っていた切原の目から涙が零れ落ちた。いや、厳密に言えば本当に突然の事だったので涙だったのか確認が出来なかった。コンタクトでも飛んだのかと思ったのだが、切原はそのまま続けてぼろぼろっと涙を頬に伝わせる。
「え、ちょちょちょ、どうした切原」
「嫌っス…先輩方が卒業なんて」
「え、えー…」
「どうして俺を置いて行くんスか…行かないで下さい…」
切原は袖口で目を押さえながら、歯を食いしばって泣いていた。副部長に鉄拳制裁されても吐くほどキツい練習をこなしても一切泣かなかった後輩が突然号泣し出したら、どう対処するのが正解なんだろう。
「ねえ切原…」
「俺、また1年生からやり直したい…また先輩方と遊んで、笑って、テニスしてぇ…」
「聞けって、切原」
切原の手を引いて、顔を上げさせる。鼻水出てるよ。
「高校に入ってもみんな一緒だよ。部活でも学校でも、なんにも変わらない。切原はずっとずっと私達の生意気で可愛い後輩だし、私達だって本当は寂しい。信じられないかもしれないけど、真田なんて部室で泣いてたんだから」
「名前せんぱ…」
「確かにさ、中学と高校じゃ今までみたいにいかないと思うけど、1年頑張ったらまた同じ部活で頑張れるんだよ。ね、次期部長。幸村に部を託されたんでしょう?」
次こそ、全国優勝してくれ。って
幸村が託した立海の夢を背負って行くんだから、しっかりしなさい。そう言いながら私も泣いていた。ずっと皆で追いかけたあの夏も、もう二度と戻っては来ないけれど、また新しく作っていけばいい。次は高校で。
「先輩ぃぃぃ…今までありがとうございましたぁぁぁー…!」
「ばっか、それは私だけじゃなくて食事会で皆に言いなさい」
「うぅぅ…了解っス…」
路上で抱き合ってわんわん泣く私達にも、もうじき平等に新学期がやってくる。
新しい足音
こうして大人になってゆく
END.
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こっそり会場で先回りしているレギュラー部員を出したかったんですが、諦めたよ!