元妻の情けか、はたまた男と遊びたいがだけの子守役かは分からないが、俺は娘との面談が月に1度だけ許されていた。俺がマンションまで迎えに行くと、必ず娘は一人ぼっち。俺に似たミルクティー色の髪の毛は、何日も手入れされていないように絡まっていたいた。


「パパ!」
「ええ子にしとったか?」
「うん!今日はどこにお出掛け?」
「せやなぁ…名前の行きたいとこにしよか。どこ行きたい?」
「うーん…」
「ほなら、一回パパの家でお着替えしよか。また後から聞くから、考えといてな?」
「わかった!」


一旦自分の部屋に引き返し、柔らかい髪の毛を丁寧に解いていく。引っ張らないようにゆっくり、娘は鏡台の鏡を見てきゃっきゃと笑った。

離婚してから子供部屋は何もかもがそのままだった。無気力で、何もかもが空しくて。
こうしておけば、幼稚園から娘が帰ってきてくれるような気がしたから。

娘のベッドもクローゼットも全てが当時のまま、月に1回俺と名前を何事も無かったかのように受け入れてくれる。今思えば、そのままにしておいて良かった。


「パパ、名前ね、自分でお靴履けるようになったんだよ」
「おっ、かっこええなぁ。履いてみてや」
「いいよー!」


靴を履いて得意げに「じゃーん」とポーズをとった娘の頭を撫でてやると、ニコニコと笑って俺に抱きつく。


「よっしゃ、名前どこ行きたい?」
「…」
「遊園地でも水族館でもええで。あ、動物園がええか?パパおっきいぬいぐるみ買うたるで」
「…名前、お出掛けしない」
「ど、どないしたん…?」
「名前、パパとお家にいる」


娘の瞳からぼろぼろと涙が零れる。その泣き顔を見られまいと、娘は必死に俺の脚に顔を押し付けてきた。


「名前いい子にするから、どこも行かなくていいから、パパといっしょがいい」
「…」
「パパは名前がきらい?」
「嫌いなわけあらへん。世界中で一番大好きや」
「ほんと?」
「せや。それにな、名前はこれからパパと一緒やで」
「…ママと男の人は?」
「これから名前はパパと暮らすんや」


家庭裁判所に通う事数年。時間は掛かったが娘の親権を取り戻した俺は、今日から正式な名前の親権者になった。もう、名前をあんな連中に見せたくも触らせたくもない。「養育費が欲しいだけの癖に」という元妻の悔しそうで胸糞悪い台詞は、娘のきょとんとした可愛らしい顔を見たらふっと消えていった。


「パパと?ずっと?」
「ずっとや。これからはママに会われへんけど…」
「パパとはいつも会えるの?」
「おん、今日からここはパパと名前のお家や」
「…うえええええん」


ずっと我慢していたのか、俺の前で泣き顔など見せた事のない娘がずっと玄関で俺に抱きついたまま泣いている。その泣き声に便乗して、俺もちょっと泣いた。









並んだ二つのミルクティー




END.


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