「いつまで寝ているんですか」


仕事が一区切りついて家に帰って来れば、もう昼過ぎだというのにベッドから聞こえる寝息。


「名前、起きなさいよ」


肩を揺すってみても彼女のふんわりと巻かれた髪が揺れるだけで、まだその長い睫毛は伏せられたままだった。本当に、暢気でいいですね…貴女は。
頬にかかる柔らかい髪を避けて唇を寄せる。まだ起きない。髪より柔らかい名前の頬をしつこく押してみたが反応はなかった。本当によく眠っている。

ならば、と唇にそっと自分の唇を重ねてみた。微かな吐息を唇に感じるか感じないか、その瞬間がとても愛しくて思わず口角が上がる。

その瞬間、少し名前が身動ぎをした。これは起きるかと期待をしながら唇を離すも、依然として目は開かない。ああ、なんて呑気な眠り姫だろうか。


「名前」


折角帰ってきた俺を構いなさい。とは口に出さずにまた名前を呼んだ。布団から覗く指先に触れると、やんわりと握り返して来る。なんて可愛らしい。愛らしい。堪らずに握り返してきた手を包み込む。


「え、しろ……?」


寝惚けて掠れた声が俺の鼓膜を心地よく刺激する。ようやく起きた眠り姫は、何故か目を擦りながら俺から顔を反らした。


「何故そっちを向くの」
「やだよ…寝起き恥ずかしい……」
「何を今更」


本当に今更。お互いもう恥ずかしいところなど知り尽くしているのに。何時までも生娘のような人。名前はまだ寝起きで低めの唸り声を出しながら伸びをした。


「仕事は?」
「一段落着きましたので、昼食に帰りました」
「ええ?…連絡くれれば作って待ってたのに」
「食事よりも、名前に会いたくて」


そう言えば名前はふふ、と笑って手を差し伸べる。俺の頬を優しく撫でるその手は柔らかくて、温かいという
よりもほんのりと温くて蕩けそうで。猫のように自らその手に擦り寄った。


「おかえりなさい」
「ただいま」


目を覚ました眠り姫と、再び唇を重ねて笑い合う。
そんな俺も大概呑気なのではないだろうか。







sleeping beauty
仕事、戻りたくないです。





END.

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こういう!不毛な!会話を!永四郎と!したい!




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