妻と生まれたばかりの娘を養うのに必死過ぎたから、妻は俺から離れていったのだと思っていた。だから、娘を連れて出て行った時にも無理に連れ帰ろうとは思わなかったし、離婚にも応じた。娘の親権は勿論、妻に。
「蔵と一緒にいても幸せにはなれない」と言う妻と、何の罪もない娘に申し訳なくて。俺は何度も頭を下げた。
離婚してから数ヵ月後、同僚と街へ出た時に偶然元妻を見つけた。男と仲睦まじく、手を繋いでいた。元妻が他の男と居たって俺には文句は言えない。だが娘は?まだよちよち歩きの小さな娘の姿はなく、元妻の、やけに長く綺麗に装飾された爪が俺に焦りと憤りを覚えさせた。そこで、同僚が言い難そうに口を開く。
「白石、スマン。白石の離婚が決まる前にも、同じ光景見た事あるんや」
どちらにしても、俺は捨てられた。そして、娘もこのままでは幸せになれない。そう思った。娘の笑顔が目の前に広がって、俺は気付くと弁護士事務所にいた。
俺の、たった一人の
愛おしくて大切な家族
END.