「名前はパパの事好きかのー?」
「しゅきー」
「ほうかほうかー好きかー」
「ぱぱ、しゅきー」
「じゃあチューしてもええか?」
「やっ」
「な、何でじゃ?」
「やーの」
「パパの事好きなんじゃろ?」
「やー!」
俺は妻の元へと駆け出した娘の後姿が見えなかった。だって俺は滝のように涙を流していて、どうしようもなく目の前が滲んでいたから。名前に嫌われたかもしれん。そうなったら俺はもう生きていけん。どうしよう。
「雅治、アンタ何泣いてんの」
「うっ…名前に嫌われた…」
「もう直ぐお昼寝の時間だから機嫌悪かっただけだよ。っていうかその程度で泣くな」
だって、だって名前は俺の可愛い可愛い娘なんじゃ。
妻の言う通り、隣の部屋ですうすうと寝息を立て始めた娘を見つめる。まさか自分がこんなに子煩悩になるなんて、自分でも思っていなかった。と、不意に娘を寝かしつけていた妻が俺を手招きする。
「大きい声出さないでね」
そう言って俺の指をそっと娘に握らせる。娘は小さな手で俺の指をしっかりと握り返してきた。
「雅治が仕事に行っている間ね、夕方になったら『パパいないー』ってあっちこっち探し回るのよ」
嬉しくて嬉しくて、娘の手の温もりが染み渡って大声で泣きたくなった。でも、大きな声を出すなと言われたので必死で唇を噛んで我慢する。そんな俺の事を、妻が携帯で撮っていた。
ラブ?
シャッター音で起きるかハラハラしたぜよ
END.