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私の母曰く「彼から猛烈なアタックをされて付き合い、大恋愛の末結ばれた」だそうで、私は高校生になるまでそれを信じていた。

あの真面目で母に甘い台詞を囁いたなんて到底信じられない父がねぇ…と思っていたのだが、張本人である父に「お母さんから聞いたんだけど…」と先程の話をすると、鼻で笑われた。

更に「激しいストーカー行為なら受けた覚えはありますが」と続けたものだから、いつも父にベッタリの母と、それをハイハイと受け流す父の関係が鮮明になった気がした。っていうか母は嘘つきだ。

そんな話はさておき、冷静かつ頭の良い父は妙に勘が良かった。しかも未だに私を猫可愛がりするからタチが悪い。その件で私は怒っているのだ。部屋に通学鞄を放り投げてから、リビングにずかずかと入る。これ見よがしに隣に腰掛けても、父は眉ひとつ動かさないかった。ソファが少しだけ凹んだだけ。


「お父さん!」
「…」
「ねぇ、ちょっと…聞いてるの!?お父さんってば!」
「パパって呼んでくれないと嫌です」


ほら出た面倒臭い。
新聞を広げながらツーンとすまし顔をする父にイラッとくる。こんな父と未だに学生気分の母に育てられた私に、反抗期など来る筈がなかった。きっと来た反抗期は裸足で逃げ出したんだよ。


「…パパ、私の学校で何したの?」
「さあ、何の事でしょうか」
「惚けないでよ!わんこ先生から聞いたんだからね!」
「わんこ先生?」
「高校の担任のあだ名。甲斐先生」
「で、甲斐クンから何を聞いたの」
「パパが私をテニス部に推薦したって」


なんだそんな事かと言わんばかりに父は「ええ」と返事をして、テーブルの上のコーヒーを飲む。そして、カップを置いてから口を開いた。


「それの何がいけないの」
「お父さんのせいで先輩方が私を何の部活にも誘ってくれないの!そもそも甲斐先生が部活見学に行かせてくれないの!」
「何故それがパパのせいだと?」
「パパが職員室に乗り込んで甲斐先生を脅したんでしょう」


恐らく父が「娘を女子テニス部以外に入れるな」と甲斐先生を脅している場面を先輩方に見られたのだろう。噂なんて広まるのが早いから。


…やはり見られたからには口封じをしないと不自然でしたか
「止めて。その目付き止めて」


母が「昔パパは殺し屋って呼ばれてたのよ」と語っていたのはあながち嘘ではないと思う。


「いいじゃないですか。名前はテニスが得意でしょう」
「私は男子テニス部のマネージャーになりたいの!」
「中学の頃にも言ったでしょう。絶対に駄目です」
「もー!何で?」
「あんな男だらけのところに可愛い名前をマネージャーとしてくれてやる義理はありません」
「くれてやるって…!」
「絶対にマネージャーは許しません。どうしてもと言うならパパに武術で勝ってからにしなさい」


ぐっ、と言葉に詰まると、父は柔らかく笑って私の頭を撫でた。


「名前には、是非とも全国で優勝して欲しいんですよ。素質があるんですから」
「…テニスで全国に?」
「ええ。パパは全国で優勝までは出来ませんでした。だから、まだパパに夢を見させて欲しいんです」


これも母が言っていた。「パパはテニスが好きで、勝つ事にとってもこだわっていた」と。勝てない相手に臆する事なく最後まで必死に戦ったと。普段の父とは違う姿が見られた母を、若干羨ましく思う。また、娘である私に夢を託してくれた事が嬉しい。


「分かって頂けましたかね?」
「…考えておく」
「フ、それで結構です」


父が冷めたコーヒーを飲む横で、私は鞄から入部届けを出し、名前の欄を記入した。父はもう分かっているんだ。私がきっと女子テニス部に入るって。







「ところで、どうしてマネージャーになりたかったの?」
「え、えっと…平古場先輩がいるから…」
「ほう」






END.

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企画:テニプリ密着24時Vさま
に提出させて頂きました!



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