少女漫画には、主人公の女の子が朝「遅刻するー!」と言いながらパンをくわえて曲がり角を曲がると、異性とぶつかって喧嘩になり、後からその異性が転校生としてクラスで紹介され、お互い「あ!アンタは!」なんて大声を出すベタなものがあるらしい。そういえば、姉ちゃんの持っている漫画でそんなシーンを見たことがある。

確か曲がり角でパンをくわえた女の子にぶつかったら「どこ見てんだ!ちゃんと前向いて歩けよな!」なんて食って掛かる台詞がそのベタな漫画にはあったが、
カレーとナンを食べていた女の子にぶつかった時の台詞なんて書いちゃいなかったぞ。


「ゴメンよ。前見てなかった」


思考回路がオフになっていた俺を放置して、女の子が謝ってきた。ナンをもちゃもちゃ食いながら。向こうから謝ってきた時の対策も、パンではなくてナンを食っていた時の対策も俺は知らない。カレーのスパイシーな香辛料の香りが鼻をくすぐる。


「怪我ない?カレー飛ばなかった?」


女の子は尻餅をついたまま俺を見上げていた。未だにナンをもちゃもちゃ食っている。全然萌えないんだけど。お前はアレか、ナン食べてないと呼吸出来なくなるとかそんな感じの病気なのか。


「では私はこれで」


立ち上がり、カレーとナンが乗っている皿を左手に持ったまま女の子は走り去った。そういえばあの制服、比嘉中の制服だよな。でもアイツ、学校と別方向に走っていったぞ。

朝、登校中にナンとカレーをもちゃもちゃする女の子とぶつかってもロマンスにはなりはしない。そんなマニュアル通りの話なんて、この世には存在しないんだなと思った。


「おっす、裕次郎」
「あー凛、知ってるか」
「ぬーがよ」
「今日、転校生が来るらしい」


この時期に転校生か。椅子に深く腰掛けてから裕次郎の話を聞いてみると、どうやら女の子が来るそうだ。ただ、どこのクラスになるかは分からないので、どこのクラスも騒いでいるとか。


「情報通やっし」
「まーな」


なんて話をしている内にチャイムが鳴って、ホームルームが始まった。担任が入ってくるのと一緒に現れたのは…


「…!?」
「知っているかとは思うが、今日からこのクラスの一員になる転校生だ。さ、挨拶しなさい」
「はい、…あ」


ナンの人だ。俺とバッチリ目が合ったそいつは、驚いたような顔をして固まっている。担任が俺とナンの人を交互に見て、少女漫画と同じような反応をする。


「なんだ平古場。知り合いか?」


なんでオチだけマニュアル通りなんだよ


「本州から転校してきた名前といいます。宜しくお願いします。」
「よし、じゃあ席は平古場の隣だ」


そこもマニュアル通りかよ











「やー、あれから学校と反対側に走ってったろ」
「うん。よく考えたらカレー食べた後に歯磨きしなきゃと思って、家に戻った」
「…」








END.

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勢いだけでも小説は作れるという事の象徴である。



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