「待って下さい先輩、ちょっと心の準備ってものが…」





今から約10分前。

「財前なら放送室」そう白石先輩が教えてくれたので、私は財前先輩のもとへ向かった。口の中がカラカラで、何度も何度も練習した言葉が淡雪のように溶けて消えてしまったような感覚になる。

苦しい。苦しいけど、今日こそ告白しよう。そう誓いながら放送室の扉を開けると、放送室にある机に座った先輩と目が合った。
終始気怠そうな先輩を怖がる子もいるし、実際ぶっきらぼうだし愛想もないし先輩を立てようとも後輩を気遣おうともあんまりしない人だけど、私はいつの間にか先輩が好きになっていた。先輩の長い睫毛が瞬いて、私を見据える。猫背をちょっとだけ直して携帯から目線を上げた先輩は、やっぱりとても素敵だった。


「なんや名前か。やっと謙也さん来た思うたのに」
「あ、あの」
「今日は部活休みやろ。サボりとちゃうで」
「ざ、ざざ、ざ財前先輩」
「ん?」
「すすきれっしゅ、つきあってててぃください」


勢いで口から言葉が出たのは良しとしたいけれど、スタートダッシュで捻りを加えながら空中へ飛び上がって、そのまま落下して地面に叩き付けられた衝撃だった。噛んだ。大切な告白の場面でこれ以上無く噛んだ。いっそ舌を噛み切りたい程に沈黙が痛い。


「…もう一回」
「は?」
「は?って何や自分から言うといて。もう一回初めからやり直しや」



ここで、ようやく冒頭の私のテンパりように繋がる。公開処刑ですか。先輩は机に腰掛けたまま、携帯を閉じて私を見据えた。黒というよりも薄い緑掛かった瞳は、真っ黒な遮光カーテンのせいで綺麗に引き立っている。


「あと5秒以内に言わんと、校内放送で名前のパンツの色全校生徒に教えたるからな。5、4…」
「いいいい、嫌ですそんなの!」
「なら早うし」
「……財前先輩が好きです」
「続きは」
「……付き合って下さい!」
「おー声でか」


その先輩の台詞に被るように、カチリとスイッチ音が響く。私が火照った顔を上げると、そこにはオン・オフと書かれたスイッチに手をかけている先輩。


「せんぱ、今の…」
「俺への告白、全校生徒に聞かれてしもうたな」
「な…!」
「ちなみに、俺はイエス」


言葉が出て来ない。まさか、いつの間に校内放送のスイッチを入れたのか。そしてイエス。イエスという事は、まさか、私と付き合ってくれるのだろうか。

口角を上げた先輩が机からひょいと立ち上がり、私を見下ろした。高校に入ってから先輩はすごく背が伸びて、違う人になったみたいで寂しくなった入学式を思い出す。


「自分が待って下さい、言うた時にスイッチ入れたんや。気付かなかったやろ」
「…は、恥ずかしい…!」
「明日からは学校公認カップルやな」
「も、もっと恥ずかしい…!」
「好きや」
「え」
「…二度も言わすなアホ」
「不意打ちはずるいですよ!も、もう一回!」
「嫌や」
「ず、ずるい…!」
「はいはい、ほな帰ろ帰ろ」









「あ、謙也さん忘れとった」
「…ああっ!学校に戻らないと…」
「ええよ別に、ここまで来たんやから、このまま帰ろ」










END.

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謙也「(´・ω・`)光おらへん…」

2011.12.15 限定公開解除




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