『寂しい』
『寂しい』
『早く帰ってきて』
愛 シ テ ル ヨ
「ただいま」
何時も通り玄関でわんわん泣いているのかと思ったのだが、今日は定位置にいなかった。ヒールが擦り切れてきたパンプスを乱雑に脱いで、もう一度「ただいま」と言うが返事はない。
「おかえり」
寝室でベッドに縋り付いて枕の隅に頬を寄せていた雅治は、私を見て笑った。だから私は三度目の「ただいま」を言う。
「ここからな、いつも使ってる香水の香りがしたんじゃ」
枕を指差して、へらりと笑う雅治に「そう」と返事をして寝室を出る。ストッキングが伝線していたので、脱ぐためにリビングのソファに座ると、寝室から出て来た雅治が腰に纏わり付いてきた。
「寂しかったぜよ」
「遅くなったからね、ごめん」
「なでなでしてくんしゃい」
「待って、着替えてから」
雅治を引き剥がしてからストッキングを脱ぐ。そしてそれをごみ箱に突っ込んでから雅治を一瞥すると、彼もまた小動物のような目をしてこちらを見ていた。
「あのな、今日な…学校で…」
「夜ご飯は食べたの?」
「えっと、まだじゃ」
「はぁ…作って食べててって言ったじゃない」
「…ごめんなさい」
唇を噛んで俯く雅治。台所へ行って冷蔵庫を物色すると、ご飯の残りと少しの野菜があった。炒飯でも作ろうか。
エプロンをして野菜を切っていると、また雅治が腰に腕を回してきた。危ないので包丁を動かす手を止める。
「雅治の事、嫌いになった?」
「…ならないよ」
「ほんとに?絶対?」
「うん、本当」
「じゃあ…愛してる?」
「愛してるよ」
「俺もじゃ、愛してる」
愛してるよ雅治。
今年で7歳になる、私の息子。
END.
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実は恋人じゃなくて親子でしたオチ