※ヒロイン喋りません。
※仁王ぶっ壊れ注意。
※柳生も結構キてます。




















一度、友人に「俺とお前は親友じゃろ」と訊かれた事があります。私は友人の…仁王くんのその言葉を、きっと永遠に忘れる事はないでしょう。



私は仁王くんに勧められてテニスを始めました。一緒にダブルスをして戦った経験もありますし、彼に成り済まし、対戦相手に一泡吹かせた事も今ではいい思い出です。
そんな彼は派手な見た目によらず、とても繊細で人見知りでした。だから、そんな彼から大学生の時「好きな女の子が出来た」といきなり聞かされた時には部員全員が驚いたと思います。名前を名前さんといいました。

そして仁王くんは名前さんに告白して承諾を頂き、毎日が幸せそうでした。私も二人は最高にお似合いだと、このまま一生を添い遂げるのだと思っていました。

ですが、それは叶いませんでした。
彼女は不慮の事故に遭って、仁王くんの前から永遠に消え去ってしまったのです。

式場内で仁王くんを見掛けて声をかけたのですが、彼は抜け殻でした。他の部員が声をかけても無反応で、微動だにせず…ただただ呼吸と瞬きをしていたのですが、その瞳は真っ直ぐに名前さんの遺影を見据えていたように思います。

しかし彼は名前さんとの最期の挨拶の時間を両親から頂いたようで、そこに私も呼ばれました。そんな不粋な真似はしたくなかったのですが、仁王くんが「一人じゃと何するか分からん」と力無く笑うので、二人で名前さんが静かに眠る個室へと入りました。


そこで彼は言ったのです。「親友だろう?」と。それがどうしたのかと思えば、次に言われた台詞は私の予想を遥かに超えていたのです。



「……出来ません、事故に遭った名前さんにこれ以上鞭を打つような仕打ちは…」
「俺達になら出来る」
「仁王くん、悲しい気持ちはご察ししますが、それは余りにも非道徳的で許されない行為です」
「全部、用意も手配も完璧に出来ちょるけん、早く」
「…仁王くん」
「俺一人で出来るならとっくにやっとった。じゃがな柳生」



棺桶は一人じゃ運べんじゃろ。



そう言って私の目を捕らえた仁王くんの瞳は、まるで世界の全てを諦めたように濁ったままでした。

私は…取り分け仁王くんは変装が得意でした。だから見事別人に成り済まし、棺桶を火葬場まで運ぶように見せ掛け、名前さんを仁王くんが用意したワゴン車に運び込みました。
ワゴン車の扉を閉めた時に吹いた風が汗を冷やしていって、それに身震いしたのを覚えています。


「有難う、」


そう言った仁王くんは笑っていました。それこそ玩具を買い与えられた小さな子供のように、本当に嬉しそうに。先程の彼とは別人に変装しているので当たり前だとは思いますが、私は一瞬そこに仁王くんと居る事を忘れていました。それに加えて先程の濁った瞳を払拭出来ずに混乱しました。

その後は全て仁王くんが一任しましたので、アリバイ工作ですとか、車の処理ですとかは詳しく聞いていません。私はそれでいいと思いました。この暗闇は私と仁王くんの心にだけ留めておこうと、決して口外せずに墓まで持って行こうと思っていたのです。初対面のあなたに言うのも、本当に可笑しな話ですよね。酔っ払いの戯言にお付き合い頂いて有難う御座いました。


…今?今ですか?そうですね、実はそれから暫くして、仁王くんと二人で夕食を取る機会がありました。その時に仁王くんが紙袋を持っていたので、それは何かと訊いたんです。彼は嬉しそうにこう言いましたよ。


「名前に着せる冬服じゃ」


名前さんは、まだ仁王くんの家にいらっしゃるそうです。











END.

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捻りもクソもない作品を産み出してしまった。ちょっとお母さんの羊水に浸かり直してくる。
 


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