「ねえねえ、これ図書室に戻しておいてくれない?」
「あ、はい…」
「宜しくねー図書委員さん」


クラスメイトの女の子から渡された本は、表紙が少し折れてしまっていた。その場で注意したかったけど、見た目が派手で友達も沢山いるクラスの人気者のその子に、地味で可愛いくもない私が注意なんて怖くて出来なかった。

だから私は黙って放課後に図書室へ向かう。それから表紙を頑張って手で伸ばしてみたけど、きつく付いた折れ目は中々戻ってくれない。


「…ごめんね」


折れ目を何度なぞっても厚手の表紙は悲しそうに頭を垂らしてしまうから、本に申し訳なくて謝る。そっと本棚に本を戻して何気なく横を見ると、図書室の窓に映る自分と目が合った。

化粧っ気のない地味な顔、ひとつに結ばれた真っ黒い髪、長いスカート。可愛い女の子とは程遠い自分の姿に舌打ちをしてやりたくなる。
「目を付けられたくないから、私は陰に徹するべきなんだ」と言い聞かせて図書室を後にした。集団は紛れ込まなきゃならないんだから。


「じゅんに読書週間とかウザいんだけど」
「読書の秋だからって先生張り切りすぎやっし」
「しかも図書室暗いから行くのヤだし。まぶやー!」
「なら図書委員さんに頼めば?あ、丁度戻って来た。図書委員さーん」


教室に戻ると、再び先程の子から本を渡された。その子の周りの女の子達が皆私を見ていて、何だか居心地が悪い。


「これもお願いしていい?」
「お願いねー委員さん」


ぐい、と押し付けられた本を受け取ろうとした瞬間、横から浅黒い腕がそれを遮った。同時に鼻を掠める、男物の香水の香り。


「ご自分で借りたものはご自分で返しては如何ですか」


その低い声に女の子達の表情が一斉に強張る。そろそろと目線を上げた先には、整った顔のクラスメイトが立っていた。


「一様に彼女を図書委員さん、と呼んでいるようですが、彼女には名前というお名前があります。低脳な貴女方はクラスメイトの名前を覚えきれなかったのかもしれませんがね」


木手くん。今まで一度も話しをした事がない彼が、何故私を庇うような状態になっているのか私には理解出来なかった。

木手くんは、放心している女の子達を無視するように私の肩を抱いて歩き出した。木手くんの綺麗な横顔を見ていられなくて、私は俯きながら歩く。何処に行くのだろう。


「名前さん」
「は、はひ」
「突然申し訳ありません」
「いえ…」
「あんなものの命令に従わなくてもよいでしょう。名前さんは人が良すぎます」
「す…すいません」


彼がガラリと扉を開けた場所は、私が先程来た図書室。私の肩を抱いていた木手くんはその手を離して、クラスメイトから取り上げた本を本棚に戻した。


「名前さんの真似をして図書室に出入りするようになったので、本の位置を大体覚えてしまいました」
「…私?」
「貴女は俺に全く気付いていませんでしたがね」


窓に映る私と、木手くんの背中。こちらから見える私の顔は酷く間抜けな表情をしていた。地味な顔も長いスカートも何も変わっていないのに、顔が熱くて仕方ない。間近で見る木手くんはやっぱりとても綺麗。木手くんの香水がまたふわりと香った。


「俺とした事が、あのような輩が居たなんて気付きませんでした。…まあ、今後は名前さんに命令してくる事もなくなるでしょう」
「あの…何で私を庇うような事を…」
「…意外と鈍いんですね」












思い返せば彼の名前ばかりだった。







END.

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割り箸咥えながら書きました。(小顔ダイエット中)



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