雅治は、私の事をどう思っているのだろう。


『付き合ってほしい』と言ったのは私から。
いつもお昼誘ったり、遊びに誘ったり、抱きついたり、全部私からしている。

雅治が拒んだりすることはないが、雅治から『好き』という言葉は聞いたことがないのだ。

一度、真面目に雅治に聞いてみた事がある。
だが、よく分からない水と魚の話をしてはぐらかされてしまった。
雅治の例え話は難しくてよく分からない。
取り分け、言葉で翻弄するのは雅治の得意分野だ。


どうしたら本音を聞けるのだろうか?

そうして私はテニス部の参謀である柳を尋ねるべく、柳の教室を訪れている。
柳ならば知らない事なんてほとんどないはずだ!
私は柳を見付けるなり、雅治のデータ全部ちょうだい!と詰め寄る。


「…仁王のデータは俺もまだ確実なものは取れていない。」

「確実じゃなくてもいいからさぁ…。
だって雅治、ちゃんと真面目に面と向かって『私の事好き?』って聞いたのに意味わかんない魚の話するし…」

「アイツと目を合わせて会話する時本音を言う確率、0%」

「え、ちょっと何それ」

「ちなみにどんな話ではぐらかされたんだ?」


柳はそっちの方が興味があるようで、ノートのページを捲る。
畜生…柳も自分が雅治のデータを集めきれてないからってはぐらかされた気がする…。


「だから…なんか、『俺は自由に漂う水で、お前さんはその水に付きまとう魚じゃな』って。」

「ほう…中々興味深い例え方をするものだな」


柳がノートにペンを走らせる。
今の雅治の意味わかんない言葉をメモしてどうするんだろう。
しかも、縦書きって、纏めにくそうなノート…


「仁王は十分話しているようじゃないか」


ノートから顔をあげた柳はそんな事を言う。
今の言葉で何がわかったというんだ。柳の考えていることはまるでわからない。


「水と魚と言うのはお前達にはピッタリの表現だ。
『魚』は水がないと生きていけず、一つの水が気に入ってそこに住み着いている。
『水』は魚が無くとも平気で、どこまでも自由だ。その気になれば魚を追い出す事も逃げ出す事も出来てしまう。自分の中で泳ぎ始めた魚を気に止める必要もないのだろう。」

「つまりは…雅治は私の事をどうでも良いと思ってる…?」


柳の解釈はよくわからない。
だが、水にとって魚はどうでもいいとしか私には解釈出来ない。
だが、柳はクスリと笑う。


「だが、水は勝手に付きまとってくる魚を鬱陶しいと思うこと無くそのままにしているのだぞ?」


ノートを閉じた柳は、「案外気に入っているのかもしれんな。」と言う言葉を残して教室を出ていってしまった。

気にいられてる…?
そうなんだろうか…。いや、参謀が解き明かしてくれた、雅治の暗号が正しいのならそうなのだろう。
だが、それが確かかは証明出来るだろうか?

そうだ。目を合わせなければ良いんだ。
今雅治がいる場所なら、柳に教えて貰った。
お昼休みの後半、雅治が訪れるのは屋上…!

目を合わせると嘘をつくなら、後ろからこう言ってやれば良いんだ。





「――…雅治!

私は、
必要な魚?」




屋上の、いつも日影になっている雅治の特等席、私は雅治を見つけると寝転がろうとしていた彼を後ろから抱き着いて問う。
雅治は一瞬驚いた顔をして振り向く。
私は目を合わせない様に背中に顔を埋める。
本音を…聞かせてほしい。


「――…この水はのぅ、定期的に溜まってしまったプランクトンやら藻やらを食べてくれる魚がおらんと直ぐに腐ってしまうんじゃ。」


私の顔を覗き見る事を諦めた雅治は、前を向いたまま話す。


「…それはどんな魚でも出来るよね…。」

「まぁ、そうじゃな。
だがな
その一匹に任せられるなら一匹の方が俺は良いがの」


「俺は大勢で来られるんは苦手じゃき」と言いながら、抱き着く私ごと寝転がった。
腕が下敷きになってて痛い。
抱きついた腕を離そうとしても、次は雅治が腕を掴んでいて離すことが出来なかった。
でも嬉しくて、そのまま抱きついた。



「お水さん、お魚さんのこと好きでしょ」

「お水さんは口がないからわからんのー」

「お魚さんのこと離したくないんでしょ」

「…プリッ」


あ、耳が赤い。









END.
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「柳!ありがとう!」
「どうやら当たっていたようだな。」
「うん!お水さんにはこのお魚さんが良いんだって!
柳の方もがんばってね。」
「俺達は木と土だから問題ない」
「それってなに?」
「『互いに離れられず、互いを必要とする存在』だ」
「…それって自慢でしょ」
「さぁな」


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