「赤也くん!」


大きな声援の中でもその声はやけに綺麗に通って聞こえて、そちらを向けば両手を硬く握り締めて俺を見ている名前がいた。ああ、何泣きそうになってんだよ、これくらいの相手、簡単に倒せるに決まってんだろ?








BEAT!







「あのね、赤也くん」
「…ん」
「かっこよかったよ」


よいしょ、と俺の横に名前が腰掛ける。風が俺と名前の髪をさらさらと撫でて、芝生が太股をくすぐった。


「負けちまったけどな」
「うん、いい試合だったね」
「副部長に怒られちまった」
「真田さんは厳しいね」
「俺、こんなに弱かったのか」


情けない。2年エースと謳われていた俺があっさりと負けてしまった。ショックで相手の顔が歪む。名前もはっきりと出て来ない。敗因は相手の力を侮った俺だった。加えて俺の力不足。ぎゅ、とユニフォームの袖を握り締めると、血豆が鋭い痛みを放った。


「赤也くんは!」


と、突然名前が立ち上がる。風が強く吹いて、名前の髪を一層激しく絡め取った。それは逆光を浴びてきらきらと光る。


「赤也くんは弱くなんかない!3年生の凄い先輩達とおんなじメニューで練習して、レギュラーになって、テニスの練習だって毎日頑張ってるもん!私は毎日見てたもん!
副部長さんに怒られても一生懸命ラケット振ってボール追い掛けて、必死に勝とうとしてた赤也くんは強いよ!私、テニスはルールしか知らないけど、ええと…絶対に勝ちたいっていう気持ちは赤也くんが一番だったもん!勝ち負けの問題じゃない!私は赤也くんが弱いなんて思わない!」


普段気の小さい名前がこんなに大きな声を出した事にも驚いたけど、何より俺を弱くないときっぱり言った事に驚いた。あんなに惨敗したのに。


「だって…」
「私は、赤也くんのテニス好きだもん。速く動いてボールをいっぱい打ち返して、ポイントが決まった時の赤也くんの笑顔とか、決められても余裕で笑ってる赤也くんが好きなんだもん。
…酷いかもしれないけど、私にとって勝ち負けは大切じゃなかったの。確かに勝てたら嬉しいけど…でも、赤也くんが楽しんでテニスしている事が、私にとって全てで、それが幸せだった」


テニスを楽しむ。大歓声の中で一人泣きそうな目をしていた名前は、俺がテニスを楽しんでいないから泣きそうになっていたのか。血豆の痛みなんてもう忘れていた。その手をそっと伸ばして、名前の頭を撫でる。


「…泣くなよ」
「だって、赤也く、ん辛そうだから、励ましたかったのに…私、文句ばっか、」
「文句じゃねーだろ?俺は元気貰ったぜ」
「…ほんと?」
「テニスを楽しむか…ああ、幸村部長も言ってたなぁ」


流れの速い雲を見上げたら、ちょっと涙が零れそうになった。ああ、悔しい。次こそは絶対に寡って、そして…


「俺さ、今日誕生日なんだよ」
「うん。知ってるよ」
「そんで、勝ったら好きな子に勝利をプレゼントして、告白しようとしてたんだ」
「えっ」
「でも負けちまったから、ここで言うわ」
「ここ、って」
「好きだ」


俺にとって勝利もお前も、一生にひとつだけの存在だと思うから。秋の空と名前に、次の勝利を誓おう。









END.

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赤也 お誕生日おめでとう
 


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