「なぁ、名前さん。千歳見かけへんかった?」
「え?えっと…見てないですよ」
「そか…。見つけたら、今日は部活出ろって言っといてくれへん?」
「あ、はい。わかりました…。」
白石先輩が立ち去った後、窓の外をチラリと見る。
この2年の教室前の廊下のこの場所からだけ見える木陰。
「…やっぱり、いた」
中庭に出ても入り込んで近づかなければわからない死角。そこが最愛の恋人の特等席だ。
「――…千歳!起きて!部活でしょー!」
窓から叫んで見ると、千歳は一瞬ビクリとしたが、またそのまま動かなくなってしまう。
まったく…直接行かなきゃダメか…。
教室の鞄を持って中庭にでて千歳を探す。
やはりあの木陰から一歩も動かずにそこにいた。
「千歳…早く起きなってば。」
「―…ま…まってほしか…」
声をかければ、意外にも起きてた。なら早く起きれよな…。
さして眠たそうでも無いのに何が「待って」なのか…。
「いいから早く。ほら…」
「ひっ…――」
手を引っ張ると、なんか私より可愛い声を出して怯えられた。
「え、な、何…?」
「く…くも…―」
クモ?
ふと目線を上げると、千歳の頭の直ぐ上にクモが巣を作って居座っていた。
そういや千歳、クモ嫌いって言ってたっけ。
千歳を見ると、それはもう今にも泣きそうな顔で首を振ってる。
なにこの千歳、はじめて見た。超乙女。
「なんだ、クモかぁ」
わたしはおもむろにクモの巣を素手で一刀両断。クモを弾き飛ばした。
「ほら、もう大丈夫だから行こう」
「…強かね…名前…」
りとるはーと
「俺、名前と結婚したら蜘蛛も怖くなかとよ」
「退治するのは私でしょ」
「へへ」
「いいから部活行きなさい」
END.
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