超怖い怖い怖いけどこのままじゃあのワンちゃんが死んじゃう。でも私は犬が物凄く苦手。怖い怖い怖い怖いよどうしよう誰か呼んで来ようかな、ああでもその間にワンちゃんが入ってるダンボールが沈んじゃったらどうしよう。


くんくんと鼻を鳴らして私を円らな瞳で見つめている(多分)捨て犬。私が部活の帰り道に土手を歩いていると偶然聞こえた小さなSOS。

川に浮かぶダンボールの中にいたワンちゃんが怖くて体が硬直したが、このまま放ってなんておけない。


「くっ…!届けぇぇ…!」


長い枝をダンボールに引っ掛けてみようと思ったが、届かない。ワンちゃんがこんなに近くに居る。怖い。でも助けないと。思わず涙が出た。


「…っ、待っててね」


迷っていられない。涙を拭い、靴も靴下も脱ぎ捨てて、川に足を浸す。


「冷たぁっ…!!」


私の腰辺りまで染み込む水の冷たさに身震いしながら、少しずつワンちゃんに近寄る。
暴れられたらどうしよう、噛まれたらどうしよう。抱っこ出来るかな、怖い、怖いけど…!


「おい!」
「え?」


怖い怖いと頭の中で繰り返していた時に、直ぐ後ろで聞こえた声。


「し、宍戸くん!?」
「お前…名前か!?何してんだよ!」
「あの、ワンちゃんが」


土手の上には、驚いたような…ちょっと怪訝そうな顔をしていたクラスメイトの宍戸くんがいた。宍戸くんは私を見、そして私が指差すダンボールを見た途端、自転車をその場に乱暴に乗り捨てて斜面を滑るように降りてくる。


「アイツ、お前の犬なのか?」
「ううん…きっと捨てられたんじゃないかな…」
「このままじゃ危ないな」
「うん、だから」


ジャボン。その大きな音で私は「私がワンちゃんを助ける」まで言う事が出来なかった。宍戸くんは躊躇うこと無く川に入ると、じゃぶじゃぶとワンちゃんの元まで川を進んで行く。そして、あっという間にワンちゃんを抱えて岸まで戻ってきた。


「宍戸くん、靴が…」
「それよりホラ、手」
「え、」
「そっから上がれよ。掴まれ」
「ああ…ありがとう」


ワンちゃんに怪我はないようで、岸に座り込んだ宍戸くんの周りを尻尾を振りながらぐるぐる回っていた。


「良かった…」
「お前、犬好きなのか?」
「…ううん、本当は怖くて触れないの」
「は?」


宍戸くんは目をまん丸にして驚いている。…そりゃそうだよね、変なヤツと思われたかも。


「すっげーな、名前って」
「す、すごい?」
「苦手なのに助けようとしてたんだろ?制服も濡れてんのに。それってすげぇじゃん」
「そんな事…」
「あ、タオル使うか?部活で使ったやつだけど」


恥ずかしくて、宍戸くんの顔が直視出来ない。「お前、俺ん家で飼ってやるよ」とワンちゃんを撫で回す宍戸くんのタオルは、ふかふかで目の前のワンちゃんみたいだった。










「どうだ、結構デカくなっただろ?」
「うん、ほんとだね…ヒィッ!」
「いい加減慣れろよなー」
「まだ無理、怖い…」






END.

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