「もうまーくんなんて知らない!名前も浮気しちゃうから!」
「ちょ、名前。待ちんしゃい」
「離してよばか!まーくんなんか嫌い嫌い!浮気者!」


「また始まったよ…」と丸井ブン太はうんざりしたような目で二人を見ていた。膨らませたガムがぱちんと弾けて、彼のテンションのように萎んでいく。仁王と名前。二人合わせて立海の迷惑バカップル。




事の発端はこう。丸井がバリバリとスナック菓子を噛み砕く音が騒がしい教室に浮かんでは消える昼休み、横で仁王が雑誌を読んでいた。


「このモデル最近よく見るな」
「そうなんか?」
「テレビに出てたぜぃ」
「ほう」
「いいよなー胸デカくて!」
「そうじゃの」


次はガムを噛みながら雑誌を覗き込んだ丸井が言った一言に、特に意味もなく同意した仁王。しかし次の瞬間、彼の体は捻りを加えながら斜め下に叩き付けられていた。べちゃ、と音を立てて床と仲良くなる仁王。丸井は呆然としながらもガムを噛む。

そして冒頭へ続く。余計な事を言ったと思い、丸井はちょっと前の自分にテニスボールをぶつけたい衝動に駆られたのだった。


「まーくんは、私よりもこのモデルが好きなんでしょ!」
「んな訳あるか。名前が一番じゃ」
「だって私、こんなに顔小さくないし胸もおっきくないもん!」
「名前は名前なだけで十分じゃき、そんなに怒る事じゃなか」


名前の両手を握りながら真剣に話す仁王。しかし悲しいかな、その整った顔には真っ赤な鼻血が伝って真剣みに欠ける。

ティッシュを渡そうと思ったが、以前こういう場面に割って入って名前に「ハムの人は黙ってて」と睨まれた事があるから止めておいた。


(っていうかハムって…せめてガムにしろよぃ)


その言葉を未だに気にしている丸井の目の前では、名前が目を潤ませて仁王を見つめている。
どうやら仁王の甘い台詞に蕩けてきたようだ。これもいつものパターン。しかし、当の詐欺師で有名な仁王もこの時ばかりは真面目な様子で語り続ける。


「俺はお前を好いとうよ。名前しか見えん。名前以外の女はみんな深海魚に見える愛の病気なんじゃ」
「まーくん…!」
「俺には名前しかおらん。お願いじゃから浮気なんてせんで?」
「…うん!名前もまーくん愛してる!ほっぺたたいてゴメンね!」
「いいんじゃ、悪いのは俺じゃき」
「顔洗いに行こ?名前がまーくんのお顔ごしごししてあげる!」
「プリ」
「まーくん好き好き!」


仲良く腕を絡めて教室を出て行った二人を見送ってから、丸井は床に投げ出された雑誌を拾ってため息をついた。そして心底思う。


アイツらマジで早く別れねーかな








5年後に二人の結婚式に呼ばれる事を、まだ丸井は知らない。





END.

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