男なんて馬鹿ばっか。性格悪くたって顔とスタイルがちょっとでも良ければ何だって許されちゃうもん。
「性格重視」とか言うヤツに限って美人にしか近寄らない癖に。美人で性格のいい女がアンタなんか相手にする筈ないでしょ?三流に媚びへつらうのは所詮三流。同族同士仲良くおやり。あーあ、笑っちゃう。


私は跡部名前。


この名前を言えば、殆どの人間は怖がって近寄らないか私に取り入りたくてお世辞を使って離れなくなるの二つに別れる。

この学園で絶対的な地位に居る跡部景吾の妹なら、当たり前かもしれない。下手をして私を怒らせ、それがお兄様に知られれば…

…って、馬鹿みたい。私はそんな下らない事をお兄様に頼ったりしないし、何よりお兄様だってそういうのは嫌いな筈だ。


だから私は「跡部景吾の妹」として扱われるのを嫌った。お兄様が嫌いな訳じゃないし、仲も良いけどね。

私を「私」として見てくれるテニス部の先輩と同級生は好き。
皆楽しいし、お喋りしてて飽きない。…只一人を覗いては。


「名前ちゃん」
「…忍足さん、ご機嫌よう」
「他の部員はまだ来とらんのか」
「はい」


忍足侑士。私はこの先輩が苦手。
忍足先輩特有の雰囲気が怖いのか、どうしても目が合わせられない。可笑しな話。先輩よりも背が高い鳳くんでも平気なのに。私は何を怖がっているんだろう。皆を待ちながら宿題をしていたのに、変に絡まれても困るので書きかけのノートを閉じた。



「名前ちゃんて、俺の前やとあんまし笑わへんよなぁ」
「そうですか?」
「目ぇ合わしてくれへんやんか。傷付くわぁー」


ぎくりとした。怖いと思っている人間の前でニコニコできる程の度胸なんて私には無い。…ああ、話も弾まないし、誰か早く部室に来てくれないかな。


「なあ名前ちゃん」
「!」


背後からの声に思わず震える。振り返ると直ぐ傍に先輩が居て、私を見下ろしていた。


「俺の事嫌いなん?」
「…嫌いじゃないです」
「今も目ぇ見てくれへん」
「…」


こんなに異性が近くにいて、更にこんな風に不躾な扱いを受けたのは初めてだった。何だか悪い事をしたのを咎められているようで、私は黙りこくる。


「俺、こんな見た目やけど実際優しいんやで」
「…」
「ああ、分かった。ほんならメル友から始めよ」
「え?」


そう言うなり彼はあっさり私から離れ、私の数学のノートを勝手にパラパラめくった。そしてポケットからペンを出すと、最後のページにアドレスを書き綴る。


「文だけなら怖ないやろ?」
「…」
「メールしてな?」


私にノートを押し付けて、忍足先輩は笑った。電話番号を書かなかったのは私への配慮なんだろうか。
何も言わないでいると、岳人先輩やお兄様達が部室へ入って来た。少しホッとする。「今日は皆えらい遅かったな」と話す忍足先輩への恐怖が、さっきの笑顔で少しだけ薄れたような気がした。


私は跡部名前。

先程の無礼な尋問は、私に気後れしなかった先輩の度胸に免じて許してあげる事にした。










題名:今晩は。
本文:名前です。


散々悩んでこれだけのメールを送信。送信完了の文字に、また忍足先輩の笑顔が浮かんだ。変な気持ち。







END.

**********************

「ふっふぅぅぅぅぅぅ!!!!謙也来たで!!来た!!名前ちゃんからメール来た!!!!」
「いきなりデカい声出すなアホ!つか名前ちゃんって誰やねん!」


忍足に悪気はありません(笑)

 
10,000HIT記念!
 


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -