「名前さん!好きや!
おっぱい触らせてくれ!」
「いいよ」
「えっ」
イエス オア はい
涼しい顔をした名前さんが、俺を静かに見上げる。自分の机に腰掛けて、携帯をカチカチ操作したまま。ああ…器用やな、なんて思った。
「…ええの?」
「白石くんが触らせてくれって言ったんじゃん」
「言うたけど…そこは何言うとんのやボケカスゴラァ!出るとこ出てもええんやで!言うて怒るポイントちゃうの?」
「白石くんって、今までそんな扱い受けて来たの?壮絶だね」
こんなん言うたのは名前さんが初めてやで。と言うと、名前さんは立ち上がってズイッと俺に詰め寄った。携帯を閉じるぱちんという音が、誰もいない教室に響く。
「私も白石くんが好きだよ」
「ほ、ほんまに?」
「うん」
大きな名前さんの瞳に、余裕を無くした自分の顔が映っていて笑いそうになった。阿呆やな、なんて顔しとるんや俺。彼女出来た事ない健全な男子でもあるまいし。
また距離を縮めた名前さんに、俺は思わず後退った。背後はいつの間にか教室の扉で、ガタリと音が響く。
「でも白石くん、3組の子と付き合ってなかった?」
「とっくに別れた」
「ああ、ならフリーか」
「付き合うてくれるん?」
「いいよ」
「う、嘘やない?」
「証拠見せてあげようか」
疑問符ばかりを投げ掛ける俺の手を取った名前さんは、その手を自分の胸に押し付けた。むにゅ、と柔らかい感覚が指先に甘く突き刺さって、俺は頭が真っ白になる。
「私の心音、速いでしょ?」
余裕の表情とは裏腹に、ドクリドクリとハイスピードに波打つ名前さんの心臓。左手の小指の辺りがダイレクトな振動を感じて、緊張のあまり指が痙攣しそうになった。
「まだ証拠が足りない?」
「いや、もう…」
十分や。とは言えなかった。やって名前さんの唇が俺の唇を塞いだから。指先の柔らかさと唇の柔らかさが、残り少ない俺の余裕を削ぎ落としていく。
「やっぱり付き合うの止めた、なんて言わせないからね」
唇を離して三日月のように目を細めて笑う名前さん。その美しさに思わず腰が抜けた。教室の扉を伝って、情けなく床にへたり込む。
「や、止めへん…」
「じゃあ携帯アドレス交換しよ」
「おん…」
「あー、待受が私だ。これ何時の写真?」
「ちょちょちょ…!か、勝手に見んといて…」
するりとポケットから抜かれた俺の携帯。屈んだ名前さんの下着が見えそうだったから、携帯を取り返そうとした手を慌てて引っ込めた。アカン、俺超かっこわる。
「次はちゃんとフルメイクして髪型セットしたの正面から撮ってよね、ダーリン?」
名前さんは俺の知らんタイプの女の子やった。今まで自分の事をちょっとSっ気ある思うてたけど、ちゃうかも知れん。
「…ん、分かった」
やって、なんや俺喜んどる。
END.
**********************
10,000HIT記念!