そんなつもりは毛頭なかった。
私はただ平古場と甲斐と放課後の教室で遊んでいて、暇だからゲームをしようって話になったんだ。
ゲームは即負けた。だって廊下を全力疾走するなんて、…縮なんとか法を使う二人に敵う筈ない。そうだ、私はこの悪ガキ共にハメられたんだよ。
「ちょ、待っ…吐きそ…」
「ははっ体力ねーなぁ」
「ダサいやっし」
お前らみたいな体力馬鹿と一緒にすんな。こちとら帰宅部のエースだぞ
引きずられながら教室に戻ってメロンソーダをガブ飲みしていると、平古場が私の肩をおもむろに叩いた。
「罰ゲーム、永四郎に告白な」
驚き過ぎて平古場にメロンソーダを吹いた。
「ほら、やっぱり部室にいる」
「よし行け名前」
「マジかよ…マジでかよ…」
部室の窓から、男子テニス部の部長「殺し屋・木手永四郎」が見える。何やら眉間にシワを寄せて部誌を睨みつけているその姿に、私は盛大にガクガクした。
「だ、だって私木手くんと話した事あんまりないし…」
「ちばりよー」
「えー、早く行けよ!」
「他人事だと思いやがって。平古場お前メロンソーダくせぇんだよ」
「メロンソーダかけたのはお前だろうが」
くそ、木手くんと何かギクシャクした空気になったら甲斐にもメロンソーダ吹いてやるからな。
「し、失礼します…」
蚊の鳴くような声で部室の扉を開ける。背を向けるようにして机に向かったままの木手くんは、相変わらず部誌にガンを飛ばしていた。
「何のご用ですか」
ややややややべぇよコレ超イライラしてる声だよ!!!!
オイまじふざけんなよバカ平古場と沖縄コッカースパニエル。笑い転げてるのが窓から見えてんだよ。
「あ、や…その…用っていうか」
「下らない事でしたらお引き取り願えますかね」
下らないどころかコレ罰ゲームです。
いやもう引くに引けない。さっさと言ってさっさと帰ろう。そして二人の顔面にメロンソーダを浴びせよう
「わ、私…木手くんが好きなの」
その声に木手くんがゆっくりと振り返る。眉間のシワは消えていて、切れ長の目が普段より少しだけ開かれていた。
まさかそんな顔されるとは思っていなくて、絶対に直ぐ追い出されると身構えていたから拍子抜けしてしまう。木手くんは何も言わない。
「つ、付き合って…欲しい…な」
えへへ、と力無い笑いが込み上げる。…早く何か言って追い出して欲しい。晒し首になっている気分だ。
「いいですよ」
「えっ」
「お付き合いしましょう」
うそだろ。
「お付き合いするのですから、今から一緒に帰りましょうか」
「え、あの」
「ああ、部誌の確認なら済みましたので」
いや、そうじゃなくて。でも「おめでとう私。彼氏が出来たヨ」っていう感じでもなくて。
木手くんの逞しい腕に引っ張られながら部室を出た私を、平古場と甲斐が呆然と眺めていた。おいお前ら、助けろ。
「ああ、そうだ」
…という声と共に木手くんが振り返る。そして、自分より頭ひとつ分小さい私に合わせるように、木手くんが屈んだ。
「…!!」
「メロンソーダの味がします」
嘘つきメロンソーダ
不意に重ねられた唇に驚いたのと、ニヤリと笑う木手くんにイラッときて、思わず尻にハイキックしちゃった。
「なかなかやりますね」と笑う彼を見上げながら、罰ゲームの事は墓場まで持って行こうと誓った。
END.
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