とある日の外遊びの時間。
園児達が中庭を走り回り、ジャングルジムに上ったりしているのを見守っている私。
時々謙也くんが光くんに砂場の砂をかけられて泣き喚く声が聞こえる事以外は、平和な午後だった。
(光くんは銀先生に怒られました。)
「ん?」
何気なく中庭を見回した私は、片隅にしゃがみ込んでいる園児を見付けた。具合が悪いんだろうか?
「た、大変!」
急いで園児に近寄る。
……ん?園児?なんか…背中がやたら広いような…
「君…どうしたの?」
「?」
私に振り向いた園児(?)は、口をモグモグ動かしながら立ち上がった。や、やはり背が高い。
小学校高学年くらいはあるだろうか。っていうかスモックがパツンパツンになってるし、下のズボンは指定のじゃない。そんな無理矢理スモック着せなくても良かったんじゃ。
ネームには
「たんぽぽ組 ちとせ せんり」
小春先生のクラスだ。
「千里くん、具合悪いの?」
「ううん、食べとったとよ。」
「な、何を?」
「たんぽぽ」
マジかよ
これがお菓子とかをこっそり食べてたなら怒ったりも出来たけど、たんぽぽ食べてたって言われて何て怒ればいいんだ。思わず教職員としてあるまじきツッコミまで心でしちゃったよ。
「た、たんぽ…ぽ?」
確かに千里くんの手にはたんぽぽが握られている。まさか食われるだなんて思わなかっただろうたんぽぽは、心なしか寂しげに頭を垂れていた。
「そうたい」
っていうか周りの子の反応が無い。
普通たんぽぽ食べてたら「!?」ってならないかな。え、何…つまりはコレ日常なわけ?
マジかよ(二回目)
「あら、千里くんったら」
パタパタと走ってきたのは小春先生とユウくん。相変わらずアタックしてるんだね。
「たんぽぽは食べちゃアカンって言うたよね?痛い痛いーて泣いてるやろ?」
「たんぽぽも泣くと?」
「せやで、折角千里くんに見て欲しくて咲いたのに、食べられたら見て貰えへんやん。」
上手いな小春先生
「なら、もう食べない…」
「偉いなぁ千里くん。千里くんは優しい子やもんな」
くしゃくしゃと頭を撫でられた千里くんは、照れ臭そうにへへっと笑った。
「あっちでブランコしてくるばい」
ブランコでは、謙也くんが光くんに押されまくって残像と化してる。謙也くんは声も出ないようだ。
(やっぱり銀先生に怒られました)
そんな地獄絵図のブランコへ走り出した千里くんを見送りながら、小春先生は呟いた。
「変わった子やろ?」
「ちょっとビックリしましたけど…(あの絶頂小豆色先生に比べれば)素直で可愛い子ですね。」
「せやねん。仲良うしたってや」
また新しい園児と知り合えた。
ユウくんが小春先生に「浮気か」と駄々をこねている、そんな平和な日。
つづく