「はーい、皆おはようさん」


おはようございまーす!!


「今日もやるでー!んんーっ!」


絶頂(エクスタシー)!!



「ちょっと待て」






《初めまして、先生》







「はい、今ええ突っ込みをしてくれたんは、今日からすみれ組の先生になった名前先生やで。皆仲良くしてやー」


私が親なら訴えるレベルの挨拶をかましてくれたのは、今日から私が働く「四天宝寺幼稚園」すみれ組の先輩教員。白石先生。

いやマジで園児に何を言わせているんだコイツは。子供は
「ねえお母さん、絶頂って何?」
とかって言っていないのだろうか。

初めはすっごいイケメンだと思って緊張していたのに、よく見りゃ服装は上下小豆色ジャージ。先端がすぼまってるチャック付のやつだ。

とどめに先程の朝一「絶頂」で、私の彼への印象はイケメンから頭が残念な人になってしまった。堕ちるのなんて簡単である。



「明日からは名前先生にもエクスタってもらうで」

「セクハラですか」




 
  
「あらぁ、名前先生」

「あ、小春先生…」


休憩時間、職員室で友人に
【イケメンかと思ったら頭がエクスタってた先輩】という題名のメールを打っていた私に、たんぽぽ組の先生が話しかけてきた。

この方はフリフリのエプロンに身を包み、笑う時の仕種もとっても上品な坊主頭のまごうとなき男の先生である。


「どうやった?すみれ組の子達みんなええ子やろ?」


まあ、オネエ系だろうが何だろうが良い方だと思う。


「う、浮気か小春!死なすど!」


こうやって腰に園児がブラ下がる程モテてるしね。


「もうっユウくん、皆とお外で遊んでおいで」

「嫌や。小春と一緒がええ」


うわぁ凄いフォーリン ラヴ。
私にもこんなに必死に腰にしがみついて来る恋人が…やっぱ冷静に考えたら要らない。

ユウくんと呼ばれた男の子は、くりくりの猫目を潤ませて小春先生にしがみついている。



「先生…」



か細い声が職員室の入口から聞こえた。顔を向けると、金髪のフワフワな髪の毛をした男の子がこちらを見ていた。


「チューリップ組の謙也くんやないか。どないしたん?」


小春先生(+ユウくん)が謙也くんの前にしゃがむと、謙也くんはぷるぷると震えだした。


「あ、あんな…光がな…
俺もブランコ乗りたい言うてるのにな……さ・30数えても変わってくれへぅぅうわぁぁぁぁぁん!!!!


俗に言う「先生に言ったるかんな!」状態である。謙也くんは火がついた様に泣き出してしまった。


「私が行きますよ、小春先生」


べそをかいている謙也くんの手を取り、職員室を出る。


「もう一回先生と、光くんに乗せてって言おうね」

「…うん」


鼻を啜る謙也くんと一緒にブランコの元へ向かうと、ブランコの前に謙也くんより小柄な男の子がいた。

私と謙也くんに気づいたようで、じっと私を見上げている。


「えっと、君が光くん?」
 
「そうっす」


怒られると思ってブランコから降りたんだろうか…?
謙也くんは「さっきまで乗っとったんやで、ずるい」とまた涙声。


「謙也くん、ブランコに乗りたいんだって。乗ってもいいかな?」


そう聞くと、光くんはあっさりと頷いた。何だ、いい子じゃないか。


「謙也くん、ホラ乗ろうよ」


腑に落ちないような顔をしていた謙也くんは、私が促すと嬉々としてブランコに飛び乗った。


「先生、背中押してや!」

「うん。いくぞー」


にこにことブランコに立ち乗りする謙也くんの背中を押す。


「先生」

「ん?何?光くん」

「謙也くんバランス苦手なんすわ」


ズシャアアァァァァッ!!!!


「けけけけ謙也く―――ん!!!!」



「しゃーないっスわ」と呟く光くんの声は、私のソウルフルなシャウトによって掻き消された…そんな幼稚園勤務初日…

 
 



つづく
 
 


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