「奥さんの腰をさすってあげて下さい」そう看護師さんに言われたから優しく腰をさすってやったら、当の本人に「気が散るから触らないで」と怒鳴られた。

だから飲み物を飲ませようとしてペットボトルを渡したらストローが上手く咥えられなかったらしく「いらない」と突っ撥ねられた。

それから暫くして、分娩室に入っていったのをただオロオロして待っていた。廊下を500往復くらいしたかもしれない。携帯を開くと古い友人達から沢山メールが入っていたが、内容が右耳から入って左耳に抜けていくようだった。「今日、お父さんになるんだね」という文字だけが目に焼き付いて、廊下を往復する脚を加速させる。

産声が聞こえた時は、振り返った勢いで首を痛めた。でもそんな痛みなんて気にならなくて、一目散に分娩室の前まで戻った。スリッパが片方なくなった。

看護師さんの「おめでとうございます」という言葉を受けながら入った部屋の中に、お前さんはいた。小さくて丸っこくて、やっとこの世に生まれて来てくれた可愛い俺の子供。涙を流していた妻の横で俺も泣いた。泣き過ぎて妻にドン引きされた。

友人が沢山お祝いしてくれた。「まさかあの仁王が」「先を越されたな」「おめでとう御座います、仁王くん」なんて言いながらバシバシ叩かれた。全員結構本気だった。でも嬉しくて、お礼を言いながら妻に抱かれている娘を紹介した。

赤髪の友人が「俺の息子と結婚させようぜぃ」と言い出したので、スリッパで頭を叩き割ってやろうとした。パコーン!といい音がして、友人は頭を押さえて悶絶。だが、その音で娘を泣かせてしまった俺は、友人が帰った後に妻にめっちゃ怒られた。もういい大人なのに超怒られた。ちょっと泣いた。


退院して、俺と妻の実家に挨拶に行った後、ようやく家族全員で我が家に腰を下ろした。子供を優しくあやす妻を見ていると「ああ、これから俺が一生をかけて守るものがここにあるんだ」なんて思ってまた泣きそうになった。だから慌ててトイレに行く振りをしたら、先日痛めた首がちょっと軋むような音がした。











俺がパパじゃ。


 
 
END.

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テーマ「人外ファンタジー」
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