好きな人からの本命チョコレートが欲しいと願い続けて何年か経つ。もう毎年、わざわざ「義理」と面と向かって言われ続けていて、分かっていてもきちんと傷つく自分の心の脆さにはそろそろさよならをしたかった。でもそれは、一人じゃあできない。 また二月がやってくる。 「今なんて言いました?」 「聞こえなかった? 風のせいかな」 「いや、聞こえた……けど……」 ビュウビュウと風がうるさいのに、耳は都合のいい音だけを拾ったのに、それを信じることができないのは、何年も何年もこの気持ちを燻らせつづけたからだろうか。今日はいつもより寒いのに、なまえさんの言葉を聞いてから数十秒も経ってないのに、カッカと身体が煮えるようだった。俺の言葉になまえさんは何度か瞬きをして、それからいとしいものを見つめるように目を細めた。 「恵が成人になるの待ってた。まだわたしのこと好きでいてくれてたら、その本命チョコ受け取ってほしいです」 目の奥が熱かった。ずっと前から望んできたことが掴める位置にあるのに力が入らない。なまえさんの声をひとつひとつ噛みしめて、絶対勘違いじゃないのに、必要ないのになにか裏があるんじゃないかと思ってしまう。失礼なのは分かっている。でも。 「先になまえさんから好きって言ってください。それくらい良いでしょ、俺何年も待ちました。俺のこと、試してるとか、からかってるとかじゃないなら……」 声が震える。でも今回に限っては許してほしいと思う。誰に? もらった袋の持ち手を必要ないのにきつく握りしめる俺の手を、なまえさんは握ってくれた。 「からかってないよ、試してもない。ごめんね、ずっと好きだよ。言い訳になるけど、大人になるの待ってた。ずっと義理だって言ってたのは、他の女の子を好きになることもあるだろうなって、思ってたから……失礼な話だよね」 「……」 「恵はずっとわたしのこと好きでいてくれたのに」 本当に、失礼な話だ。でも、好きだときちんと伝えたことはないから、俺も俺でひどいのかもしれない。なまえさんが俺の気持ちに気づいていることは知っていた。ひとりでこの人を想う時間はもう終わったと思うと、失礼とか、そういうのは全部どうでも良くなった。 ズズ、と鼻をすする音が情けなくて仕方ないのに、止められない。見上げてくれるなまえさんの顔が見たくて目をこすった。好きになったときと変わらないままの笑顔がそこにいて、濡れた息がか細く漏れた。 この人のことが好きだった。 |