「めぐ、そろそろ風呂入りな」 「……」 「? あ、寝てる」 なまえが皿洗いを終えてリビングに戻ると、恵がテーブルのわきに転がっていた。わざわざ硬い床で寝なくてもいいのに、と思いながら、なまえはブランケットをかけてやる。恵の頭の横に腰をおろし、おもしろくもないテレビをぼんやりと見つめ、スマホをいじる。 目立った寝息もないのが気になり恵の顔をのぞきこむと、めずらしくすこしだけ口をあけて寝ていた。なんだか面白くて、唇をやさしくつまむと、当然つまんだとおりに形がかわる。ぴく、と眉がうごいて、まぶしそうな顔をしながら、恵が目をゆっくりとひらいた。 「……なに……」 「口開けて寝てたよ。ねむかった?」 「ねむい……です……明日はいる」 「だぁめ、朝ばたばたしたくないでしょ」 「んー……」 「じゃあいっしょにお風呂いく?」 さっきより傾いてきたなまえの頭によって電気が遮られ、恵はまぶしくなくなった。眠気でぼんやりとする頭のなかは、ねむいのと、風呂がとても面倒だということでいっぱいで、なまえがなにを言っているのかわからない。「うん、はいる、だからあと五分……」あらがえなくなってついに目をとじる。とんでもない約束をしてしまったことを、恵は知らない。 |