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「多分そんなに辛くないよ、大丈夫」

と俺の注意を無視して注文した麻婆豆腐が、そこそこ辛かったときの顔をしている。

「辛いんですか?」
「……からくありませーん」

 笑ったら怒られそうだ。なまえさんはわりと食べるスピードが速いほうなのに、今日は全然進まない。お冷のおかわりだけが止まらない。口の中が辛いのを逃したいのか、熱い息がずっとこぼれていた。

「はあ……」
「……」
「からいよー」
「だから言ったんですよ。俺も食べます」

 取り皿に分けてもらって食べた麻婆豆腐はそこまで辛くはなかった。こんなに辛いもの得意じゃなかったのかと驚く。極端に無理なわけではないと思っていた。

「恵なんでそんなにぱくぱく食べられる?」
「俺はそこまで辛くないです。美味いですねこれ」
「そう、美味しいんだけど、からい……」

 美味しいけど辛いのと、辛いけど美味しいのは別物だと言っていたのは誰だったか。
 半分くらいは俺が食べたけど、それでもなまえさんは食べ終わらなかった。残すことは絶対にしない人だ。頑張って食べて、最後に水を飲んで、会計してからトイレに行って、なまえさんは疲れたようすで店から出てきた。

「お腹壊しそう」
「アイス買って帰ろうかと思ってましたけど、今日はやめときましょう」
「うん……」
「ガム噛みますか?」
「うん!!」

 帰り道、ガムのおかげか機嫌が良さそうだったが、途中で顔が険しくなってきていたので頑張って帰った。