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 昼は泣きながらベポが、夕方ごろはシャチとペンギンが元気になまえのもとへ向かい、ローの元へ帰った時には泣いていた。ローはというと、今から、この非常識な時間にたずねるつもりだ。ガンガンと遠慮もせずに玄関のドアを叩くと、いつもながらの迷惑そうな顔でなまえが出てきた。普段より吹雪がビュウビュウとうるさいのが、別れをより強く濃くしている気がした。

「最後にメシでもたかりにきたか?」
「それでもいい」
「……ま、いいよ。晩メシあっためてやる」
「うん」
「上着そこにかけとけ。帽子とマフラーとは貸せ、乾かすから」

 ローは勝手しったる様子でまとめているハンガーたちから一つを抜き、よく乾く位置にかけた。なまえは呆れ顔でため息をつく。
 なまえがシチューを火にかけ直したりと用意しているうちに、ローはいつものカウンターに腰を下ろした。なまえに預かってもらったふたつは、使い込まれたストーブのそばに干されてある。マフラーは、初めて会った頃に、なまえから貰ったものだった。すっかり色褪せて、毛羽立つ新しく買い替える予定はない。

「なァ」
「行かないよ。最後なんだからもうその話はやめろ」
「最後だからだろ」
「何回断った? わたしにはムリ」
「なんで?」

 大きく切られた野菜がたくさん入ったシチューを出してもらった。食べながら、見られながら、話す。

 ずっと言ってきたことだった。自分の航海についてこいと。なまえは料理ができるから、とローはもっともらしい理由をつけていたが、実際のところはそんなことどうでもよくて、とにかくなまえについてきてほしきだけだった。その理由が、自分がなまえを好いているからだということを、ローは知らないでいる。盗みを、殺しをやってきた、辛い別れを経験した、年齢にそぐわないきついことばかりをやっていたが、知らないことは知らないままの子どもだった。
 じとりとなまえを睨むが、そんなものはなまえには効かない。効いていたらこんなところには居ない。深くため息をついて目を逸らし、なまえは湯気のたつお茶をすすった。

「……金盗んで怪我してはここに転がりこんでくるおまえらを見て、わたしがなに思ってるかわからない?」

 スプーンを持つ手が止まった。ローは顔を上げる。

「メシたかるのは良い、勝手に家に入ってくるのもこの際良い、おまえらが島に来た海賊叩いて金とか盗んでんのも、わたしにとっては本当にどうでもいいことだよ。やりたいことのためにやってんのも分かってる、でもわたしはおまえらのこと好きだから、おまえが、子どもが怪我してんのを見たくない。おまえが強いのは知ってるよ。これからも強くなるだろうし、特におまえは能力者だし。いつまでも子どもじゃないのも分かってる。怪我することが当たり前なのも。でも、おまえらがどれだけ強くなろうとムリ。わたしはこの島から出たことないから詳しいことは知らんが、海に出れば比じゃないんだろ? ローおまえ、海賊船でどっか行ったことあるんだろう。怪我しただろ? ついていけない。もう一回言う、好きなやつらが怪我してるところなんか、見たくない。耐えられない……」

 なまえがこんなに悲しげに話すのを、ローははじめて見たから、驚いた。はじめて会ったときからずっとなまえは乱暴で、そのなかに優しいところがあって、いつもローたち四人を文句を言いながらも迎えてくれていた。何度も開閉をした救急箱は元々この家にはなく、四人のためになまえが買ったものだ。「いい加減にしろ」「ここはおまえらの家じゃない」そういう強い言葉があったから、勝手に乱暴な面がいちばん先に、濃く見えていた。
 わざわざあたためてくれたシチューはもう食べる気をなくしてしまったし、ローはなまえになにも言えないじわじわと視線がおちていき、視界はなまえをうつさなくなる。
 そんなつもりではなかった。ただついてきてほしいだけだった。自分のなかの当たり前がなまえのなかでは当たり前じゃなくて、そんなのは……他人なんだから、そうだ。理解できていなかった自分に腹がたつ。無理やり手をひいて行けるのならよかったが、ローが自分の気持ちに気がついていないから、むずかしい。

「それ食ったら帰りな。金が足りないなら、少しならやれる。ついてはいかないし、見送りもしない。勝手に出ていけ」

 それほど中身の減っていない皿におかわりをあたえられる。急いで食べればいいのか、ゆっくり食べればいいのか、ローにはわからなかった。




201230 紙面