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 全身が痛い。湿ったシーツが気持ち悪い。五条がわざとらしく深く呼吸をして起き上がっても、そのとなりにみょうじはいなかった。枕もとの時計は夕方を示していて、窓の外は暗くなりかけていた。
 朝方帰ってきて昼過ぎまで抱いてもらうのが、五条はいっとう好きだった。大多数の人間が生活を営んでいるあいだに、ひっそりと愛して愛されてもらうのが五条にとって、よいのだ。明るいうちにみょうじから愛をもらいたいという願望は、いつから持ちはじめたものだったか。普段はふたりとも暗いところに身を置いているからだろうか。といっても、五条がみょうじにそう聞いたことは一度もない。

 朝からセックスして、正午を回らないころに寝て、目が覚めたら夕方。流石に腹が減ったが、先にシャワーを浴びたいとはっきりしない頭の中でかんがえる。シーツを洗濯機に入れなければ、と痛む体をいたわりながら五条が立ち上がった瞬間、キッチンから大きな叫び声が聞こえた。

「なんでこれこんなに固いの!」

 もう! と怒りを孕んだ声とは裏腹に内容は死ぬほどくだらなそうで、五条はひとり吹き出す。シャワーの前に顔を見に行くことにした。

「なに怒ってんの」
「あれ起きてる。全裸やめて」
「シャワー浴びに行くから。で?」
「瓶が開かない」
「それ僕が閉めたやつ。美味しいよ」
「うまいのは知ってんのよ後のこと考えて閉めろや! こんなに腹減ってんのに開かなくてひとりでムカついてんのアホかよ。開けろ!」

 ボケ! そう言ってみょうじは五条に瓶を押しつけた。起こせばいいのにそうはしないところが、五条は好きだった。ぶつくさと文句を言いつつすぐに別の準備に取りかかってしまうから、みょうじは五条がにやけていることを知らないままでいる。
 蓋をさわると、それなりに固い。しかし五条が閉めたものだから五条には余裕だった。

「開いたよ〜」
「ありがとう。は〜いい匂い。あっ、先にシャワー浴びてよ。あんたのご飯は後で」
「えー僕も食べたい! 見たらお腹すいた」
「ダメ! シーツも洗って乾燥かけといて!」

 キッと睨まれながらピシャリと切り捨てられると口も開けない。気の抜けた返事と共に五条はキッチンを出て、さっきまで寝ていたシーツを剥ぎ取り、風呂へ急いだ。

 あんなのも開かないのか、とシャワーの熱い湯に当たりながら考える。朝は五条のそれなりにたくましい足を持ち上げたり、痕が残るくらい強い力で押さえつけたりしていたのに。手首にある弱い痕をスリ、と触る。いとおしくてたまらない。五条が抵抗しないことを分かっていて、彼女もそうしている。できている。
 良いよと良いよの先に自分たちがいることを、五条は忘れていない。



210227 着せて脱がせてお好みのまま