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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -



※学生時代




 寒くて目が覚める。となりに硝子ちゃんがいないのが分かってのそりと起き上がると、全身が痛んだ。

「まだ寝れるけど」
「さむい」
「ああ、ごめんごめん。ちょっと待って」

 窓をすこしだけ開けて煙草を吸う硝子ちゃんが、綺麗だった。同い年なはずなのに、どうしてか大人にみえる。まだまだ長いそれをすぐに潰す気は当然ないらしく、全然ベッドに戻ってきてくれない。再度横になる気も起きず、毛布を引っ張り椅子に座る硝子ちゃんの足に縋るようにくっついた。見上げると、なにやってんの、という顔があった。

「だって煙草ばっかり」
「好きに吸わせてよ。ここ私の部屋」
「やだ」
「やってるときは吸わないんだからさあ」
「……それは当たり前。ベッドで煙草はだめ」
「んじゃ今度は床でやるか。それなら吸っていい?」
「だめ」
「はいはい。これ終わったら寝るから良い子にしてて」

 ちいさな手のひらがわたしの頭のてっぺんをグシャリと一周し、硝子ちゃんは口をとがらせて煙を吐き出した。窓の外へと白いそれは消えていく。今日は外がうるさくないので、五条たちが騒いでないのがわかる。ひどいときは一晩中だったりする。

「なまえの喘ぎ声が小さくて良かった」
「何急に」
「学校でセックスしてるのはキツいだろ」
「いやしてるじゃん。事実じゃん。教室とかじゃなくて、寮だけど」
「ああ、あと、男子寮と離れてるのも良かった」
「……声が聞こえないから?」
「そ。ベッドもギシギシうるさいし」
「先輩にも後輩にも女の子いなくて良かったね」
「いなくていいよこんなとこ。女も、男も」

 うんざりしたような顔になり、煙草を持たない手でわたしのむき出しの肩に触れた。そこには先日の大怪我のあとが残っている。硝子ちゃんに治療してもらったものだ。いつになく焦ったような、悲しんでいるような、普段あまり気持ちが顔に出てこない硝子ちゃんの、めずらしい表情を見て驚いたのを、しっかり覚えている。

「あんま怪我はするな」
「うん」
「ま、クズ二人がおかしいだけで、普通はこんなもんなのかもな」
「うん……でも、気をつける」
「そうして」
「はい」
「寝るか。明日一日自習だから寝坊し放題だ」
「ゆっくり準備できるね」

 火を消すと、部屋に煙が残った。まだギリギリ水滴のついている水のペットボトルをかたむけてから、硝子ちゃんはベッドに戻る。早くしなと促されて、毛布と一緒に乗る。胸に顔を寄せると、ボディソープのいい匂いと煙草のいやな匂いが鼻を通り抜けていった。
 ずっとこうしていたいと思う。任務も怪我も、別に嫌いじゃないけど、硝子ちゃんには嫌な気持ちになってほしくない。そんなこと、わたし一人がいくら努力したってかなわないのだろうけど。
 肩に腕がまわされた。さっきも撫でられたところをまた同じようにされる。

「おやすみ」

 すぐに寝息が聞こえてくる。眠かったはずなのに、なんだか目が覚めてしまった。朝は起きられそうにないなとぼんやり思う。明日自習でよかった。まあ、自習だからエッチしたんだけど。




200325 アフター・ライト・トワイライト