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 朝からちょっと調子が悪かった。でも喉が変、という程度。今日は防衛任務があるから休めない。それに本部ではトリオン体になるからまあ平気でしょと、昼までは思っていた。
 しかしそんなことはなく、昼ごはんはまったく食べれなかったし、なんと頭まで痛くなってきている。午後の授業をどのようにして乗り切ったのか、自分でもわからない。寝てはいなかったはずだ。ホームルームが終わっても立ち上がれなかった。換装してやり過ごそうにも、トリガーには戦闘体しか登録おらず、ここで起動はできない。どうしよう。頭がモヤモヤしていて、なにも考えたくない。まだ時間はあるし、一度帰ってからでも任務は間に合うけど、そもそも帰れるか? それに、帰ったところですぐに具合は良くならない。

「なまえちゃん」
「!」
「本部行くなら一緒に行こうって誘いに来たんだけど、調子でもわるい?」

 机に突っ伏していたら王子の声がして、パッと顔をあげるも頭が揺れてグラグラした。いつの間にか教室は誰もいなくなっていて、廊下もしずかで、おどろく。
 あわてて首をふる。

「いやっ、わるくない! 行く行く、行こう」
「うん。でもまだ片付けできてないみたいだけど」
「あっ」
「やっぱり具合わるそうだね。顔真っ青」
「…………」
「帰る準備はできる?」
「できない……」
「鞄見てもだいじょうぶなら、ぼくがやるよ。もちろん見ないようにはするけど」

 片付けてもらえるのなら……と思ってしまうと力が抜ける。鞄、あんまりきれいじゃなかった気がする。化粧ポーチのチャックを閉め忘れて中身が全部出たのは今朝だったっけ? ナプキンが丸出しで転がっているかもしれない。分からない。頭、痛い。

「汚くても見なかったことにしてください」
「わかったよ。ほら、これ着てあったかくして」

 学ランを着せられ、王子の体温でなんとなくあったかくなる。ぐらぐらとする視界の中で、王子はてきぱきと教科書などを片付けてくれた。置き勉の世話までしてくれた。なんだか勝手に情けなくなってくる。

「今日防衛任務なら、ぼく代わるよ」
「ごめん」
「ありがとうって言ってほしいなあ」
「……ありがと……」

 王子は満足そうににっこりと笑った。

「いいよ。送るから帰ろう、歩ける?」
「歩ける」
「はい。じゃあ行こう」

 吐く息があつい。王子は当然のように鞄を持ってくれて、手もひいてくれた。
 家に着くまではトリオン体になってれば良かったんじゃ? と気付いたのは家まであとすこしのところだった。見慣れた家を視界に入れると途端に力が抜けてくるのはなんでだろう。王子は玄関に鞄を置いてくれた。ようやく座ることができる。腰を下ろして靴箱にもたれかかる。

「ご両親は?」
「しごと。もうすぐ帰る」
「なにか食べるものとか飲み物、買ってこようか。途中で寄ると君が休めないと思って寄らなかったんだけど」
「平気」
「ほんとう? まだ時間あるし遠慮しなくていいよ」
「だいじょうぶ。任務、おねがいしていい?」

 膝をついてこちらをのぞきながら、わたしの右手を両手でつつみこんでくれるようすは、ほんとうの王子様みたいだった、と口に出せたら王子はよろこぶのだろうが、残念なことにそんな元気はなかった。でも、わたしの言葉に王子はかわいい笑顔をかえしてくれる。

 たぶん、帰るだけならひとりでもできた。それでも王子がいてくれてよかったと思う。もうすぐお母さんが帰ってくるのは変わらないけど、きっと今よりひどくさみしかっただろうから。
 ひらひらと手を振って出て行った王子を見送った。しばらく座り込んだあとに、ソファに移動し寝転がる。全身から力が抜けた。のろのろスマホを開いて「送ってくれてありがとう」とメッセージを送ると、すぐに既読がつき、「スマホしてないで早く寝なさい」という言葉といっしょにかわいいスタンプが送られてきた。返事したいけど、指が動かない。お母さんが帰ってきた音が聞こえてきてホッとした。




210410 まなじりに乗せた光