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 ヴィクトリアパンク号はここ数日ずっとジメジメとしていた。日の光が一切届かない謎の海域に突入したからだ。すこし前までは強い日差しがつらい夏島にいたから、最初こそ涼しくて良かったものの、一切ないとなるとうれしいなどの問題じゃなくなっていた。ここはグランドライン。なにが起こっても不思議ではないのだが、それはそれ、これはこれだった。敵襲があったり時化があったりしてくれれば良いのだがそれもない。過ぎるのを待つだけ。船長のキッドは自室にこもってばかりだ。

「キッド」コンコンという小さなノックで、うとうとしていたキッドの目が覚めた。キッドのくぐもった声はノックの主には耳には届かない。「ねてるの?」開いた扉の先にはなまえがいたが、そこに光はなかった。寝るときはいつも部屋をしっかり暗くにしているキッドは、起こされるときのあわい光ですらつらいのに、今日はそれがない。その事実がまた気持ちを陰鬱とさせた。「キッド、日付変わったよ?」それが何だ。ずっと暗いと、時間の感覚もよくわからなくなる。枕から顔を離さないまま、キッドがなまえに向かって手を伸ばすと、すかさずなまえはそれを掴んだ。しゃがみこんで、内緒話をするように耳に口を寄せる。「今日誕生日でしょ」ガバッと音を立ててキッドが起き上がると、なまえは暗がりでもわかるくらいに笑顔になった。ずっとベッドから離れなかったキッドを知っていたので、久々に動いてくれてうれしかったのだ。なまえもなまえでジメジメした空気はもう勘弁という思いでいっぱいだったが、吹き飛んだ。「この海域抜けて、どこか島についたらきちんとお祝いするね」そう言ってキッドの頬にキスをする。数日ずっとぼんやりとしていたキッドの頭は、急に雲が晴れたようになった。「おめでとう。だいすき」掴んだキッドの手に自分の頬を寄せ、撫でるようにさせる。ああキスがしたいとキッドは思ったが、雲が晴れても体はそれ以上は思うようには動いてくれなかった。ゆっくりまたベッドに身を預け、なまえの頬の感触をたしかめる。「キッド、お風呂入らない? サボってるでしょ」「ンン……」「ン〜じゃないよ。ほら起きて。わたしの秘蔵の入浴剤開けてあげる」「いらねェ。臭いんだよアレ」「ひどい」じわじわとあたたかくふたりの世界が広がっているころ、甲板では島が見えたとひっそり騒ぎになっていた。だがふたりは気づかない。気づかないふりをしていた。扉の外でキラーがタイミングを見計らっているのには、キッドだけが気づいている。



200120 おめでとう!