×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



 なまえと付き合うことになった、とかなり衝撃的なニュースを聞かされたときはクルーの全員が死ぬほど驚いたものだった。これまでにまるでそんな素振りを見せなかったからだ。まあそれは良かった。好きだ好きだと付き合う前から同じ船でアピールするのもどうなんだという気がした。でも、報告のあとでもあまりにもふたりの態度が変わらないものだから、シャチはなまえに直接聞きに行った。本当に恋人同士なのかと。詰め寄るシャチになまえはきょとんとして、それからうれしそうに頷く。その顔がとてもきれいで、女性の顔だったものだから、シャチは心があったかくなってしまって、思わずキャプテンのどこが好きなんだとか聞く予定ではなかったことまであれこれ聞いてしまったのだった。

「あの顔で信じましたよおれは」
「なんの話だ」
「キャプテンとなまえの話です」
「……」
「なんかあんまり……付き合っても変わらねェんだなと」
「船でベタベタするの気持ち悪ィだろうが」

 吐き捨てるようにそう言って、ローは何杯目かの酒をあおる。そうかもしれないが、多分クルーは気にしないどころか興味津々だろう……といういらないことは言わないでおくことにした。
 酒場に来ていた。長旅で船の食糧がすっからかんになってしまったときは、全員で食事をするのが恒例なのだ。毎回かならず酒も入るから、軽い宴会のようになってしまう。

「どこが好きなんですか?」
「……ハァ?」
「気になるんで」
「なまえに聞け」
「もう聞きました。あとキャプテンだけです」

 基本クールではあるが、ローは結構顔に出る。なまえは自分のどこを好いているのか知りたいと、顔に書いてあった。知りたいなら聞けばいいのにと思いながら、シャチはそれを無視してローを見る。この感じなら押せばいける、とわかるくらいには付き合いは長いのだ。鋭い目でにらまれても今だけは怖くない。酒場の隅ではなまえがひじきと大豆の煮物をひたすらつつき、イッカクがそれに酔いながら絡んでいる。

「おれは結構なまえ好きですよ。ガサツな男どもの中でよく気がつくところとか。あといつもいい匂いするし」

 言いすぎるくらいがちょうどいいこともわかっていた。もう一押しだ! バラされても文句は言えないがここまできたら聞きたい。ローはまた酒をあおり、ドンと音を立ててジョッキを置く。視線をうろうろして、隅で煮物をつつくなまえをちらりと見たあとに大きくため息をついた。いける! 来るぞおまえら! キャプテンの貴重なのろけが! シャチは誰に言うでもない大声を心の中だけで叫んだ。

「……かわいいと思ってる」

 その言葉に、全然関係のないシャチが爆発しそうだった。10年以上付き合って、あれやこれやを見てきて、勝手にだいたいのローを知っているつもりでいたがそんなことはなかったらしい。もちろんシャチから見てもなまえはかわいい。でもそれを言うのがあのクールなロー、彼氏のローとなると、話が違うのだ。なまえに聞かせてやりてェよキャプテンのこの言葉を……とシャチが震える。何と返事をしていいのかわからなくなって黙り込むと、ローはせっかく答えてやったのにと不満そうな顔をした。何もかも酒が手伝ったおかげだろう。めずらしくローは、酔っていた。だから爆発しそうで顔を真っ赤にしているシャチにも気づかない。柄にもない自分の言葉にも、気づかない。



200112