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※学生時代




 五条の歯切れがずっと悪いままの帰り道は、たいへんに居心地がわるい。今日の任務は場所が学校から近いのもあって補助監督がつかなかったから電車を利用して、学校までは歩きだったから、余計に。
 らしくない、めずらしい態度になんだろうなと思いつつも、突っ込むほどではなかったからそのままにしておいたが、さすがに長すぎる。

「ねえ、ずっとなに言いたいの?」
「……あー、いや」
「喋るならしゃべる、黙るならだまるどっちかにしてくれる? 気が散る」

 帰るだけに気が散るもなにもないが、わざといつもよりきつめの口調で五条を咎めると、眉をよせられた。でもすぐには言い返さないあたりで、自分でちゃんとわかっていることが、わかる。
 それから五条はああとか、ううとか言って、視線をさげた。と思ったらサングラスの向こうで綺麗な目がわたしを睨んでくる。

「手ぇつなぎたいだけ! わりいかよ」

 幻聴かと思ったが、真っ赤な顔がうそじゃないことを示していて、おどろいた。
 ついこの間恋人同士になったばかりだった。先に好きをくれたのは五条で、わたしも同じものを持っていたからそれを返して。以降とくに“らしい”ことはしていなくて、だからと言ってそれは今までどおりなだけだから、まあこんなもんなんだ、と思っていた。男の子と関係を持ったことが今までになかったから、勝手がわからないでいたけど、まさか五条のほうからこんなことを言うなんて。夏油や硝子ちゃんが聞いたらどう思うだろう?

「……」
「……なんか言え」
「そういうのはスマートに手にぎるのがいいんじゃないの? 詳しくないけど」
「勝手にさわってキモがられたくねえだろ」
「手つなぎたかったけどキモがられたくもなくて、そのせいでずっとウニャウニャしてたの? 五条が?」

 図星だったらしい。ふん、と唇をとがらせる五条に、胸がぎゅうと締めつけられるのがわかった。強いけどむかつくし、同級生とくらべるとクソガキだなあと思ってたけど、かわいいところもあるようだ。

「手くらい好きにしていいのに」
「……」
「でもチューするときはさすがに言ってほしいかな」
「オマエ……話飛びすぎ」
「いつかはするんだからいいでしょ。しないの?」
「だあ! 黙れ!」
「はいはい、ごめんね。学校までつないでよ」

 差し出した手を大きくてごつごつしたものに包まれる。なんだかしっとりとしていて、ふふふと笑いが出てしまいそうになるのを堪えた。

「もうウニャウニャ言わなくてよくなった?」
「ン……」
「よかったね」
「オマエはどうなんだよ」
「手汗かくくらい緊張してくれてるみたいだし、うれしいですよ」
「このやろう!」

 ギュウ! と強くにぎられて骨がきしんだ。痛い痛いと腕ごと振ると力が弱まる。だれかと手をつなぐなんて何年ぶりだろう。まさかこんな学校に通っていながら恋愛するなんて思っていなかった。
 なにを喋ったらいいのかわからないみたいで、五条はすっかり黙った。半歩先を引っぱるように歩いてくれて、ちらりと見える耳が変わらず赤いのが、かわいい。わたしもわたしで喋らずされるがままに歩き、校門の近く、ちょうど帰ってきたところの夜蛾先生が車から降りてきていて、わたしたちを見てフンと笑った。わたしはどうでもよかったけど五条からはいそいで手を振り払われてしまった。痛かった。



201226