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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -



「いつも同じ味で似たような種類の物を買いますね」

 こういう会話の切り口はめずらしくて、五条は目隠しの向こうでパチとまばたきをした。伏黒はまんじゅうの箱を持ちあげながら成分表示を見ている。

「うん。気になる?」
「何となくです」
「なまえが好きなやつだから。僕はこれそんなでもない」

 付き合う前だ。どこのメーカーのものだったかは思い出せないが、なんとなく買ってなんとなく押しつけたチョコクッキーをなまえはいたく喜んだ。好きなのかと聞いたら好きだとニコニコして、五条はその笑顔に惚れ、なんやかんやあって今にいたる。それが見たくて、五条は出張の度にチョコクッキーを買ってはなまえにあげていた。いつもなまえはよろこんでくれる。
 ルン! と口に出すまでありそうな己の教師の機嫌のよさに、伏黒は眉をひそめる。

「流石になまえさん飽きてるんじゃないですか?」
「……はい?」
「気づいてないかもしれませんけど、五条先生、本当にいつもいつもクッキー買ってますよ」
「いやでもなまえこれ好きだよ。渡したら嬉しそうにするよ!」
「前に買ったのいつです」
「三日前」
「もう渡したんですか」
「いやまだ……時間なくて」

 同じ味のクッキーの箱を一度に二つも渡すんですか? 伏黒の目がそう言っているのをわからない五条ではなかった。


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 帰宅するなり五条はソファに座っているなまえに飛びついた。

「ねえなまえクッキーもう飽きてる?」

 離れろと五条の大きな体を押し返す腕がピタリと止まる。そのままたっぷり時間をおいて、ハア……と息を吐いた。

「正直言うと、飽きてます。ごめんね」
「恵に言われて気づいた」
「恵? なんでまた」
「いつもおんなじの買ってるって」
「まあ……そうだね」
「もう嫌いになった?」
「飽きただけだよ、きちんと賞味期限内に食べてる」
「無理してる?」
「……まあ少しは」

 だよね〜、と五条はなまえの腹に頭をぐりぐりとさせた。べつに五条がわるいわけでは気がするけどな、となまえはおもう。飽きていたのは事実。それを言えばよかったのに、言わなかったのはなまえのほうだ。

 笑った顔がかわいくてすきになったと聞いたのは、付き合いだしてからだいぶ経ったあとだった。“いつもかわいかったけど、いちばんはチョコクッキーあげたときの顔だよ。覚えてる?”わざわざ細かいところまで言わなくてもいいと照れたんだったか。そうまで言われたら、飽きたなんてひどいこと、言えない。
 そんなふうになまえが考えてるのも知らないで、五条は太ももに向かってめそめそ泣いている。なまえはそれを見て、ばかだなあ、好きだなあと思うのだ。



201127