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夢主の手持ちはデスバーンです


 カレーのいい匂いがしている。湖からの心地いい風がそよそよとわたしたちを撫でていた。

「きれいに食べるんだよ。おかわりいるなら声かけて」

 デスバーンは頷いて手を振った。ヤドランたちはいただきますの前にもう夢中だ。わたしは二人分のお皿を持ってテントの中に入る。中ではクララちゃんが毛布を枕にしながらスマホをいじっていた。

「クララちゃんカレーできたよ。ゆでたまごとヴルストとチーズ」
「太るゥ!」
「わざと〜。多いならわたしのお皿に移してよ」
「……食べるけど全部はいらないからねェ」

 バトルのあとはテントを立ててカレーを食べるのがなんとなく決まりのようになっていた。「修行の一環! ヨロシク!」とか言って、いつもいつもバトルしてと言って聞かない。わたしのほうが勝率は良い。負けたらこうしてテントの中でふて寝のようなことをして、カレー作りを手伝ってくれたことはあんまりない。
 靴を脱ぐのが面倒だから足だけ外に出して、鍋の近くでたのしそうに話しているポケモンたちを見ながら食べる。クララちゃんはあぐらをかいていた。スプーンを口に入れる。

「あ、辛い」
「辛い!!」
「ごめん! クラボ入れすぎたかも……」
「……」
「……食べるのやめとく? トッピングも多くて太るよね、ごめん」
「食べる……。チーズ多くしたら食べれるしィ……腹減ってるし……美味いし……」
「あ! モーモーミルク出そうか、味は合わないけど、口の中ヒリヒリするの抑えられると思う」
「ウン……」

 慌ててテントから這い出てリュックからビンを出した。デスバーンたちの皿はすでに空になっていて、わたしが出てきたのに気づくとさっと皿を持ってくる。

「はいはい、早いねえ。これ持ってくからちょっと待ってて」

 クララちゃんに牛乳を持って行って、ポケモンたちにおかわりをよそって、ようやくテントに戻れる。置きっぱなしにしていたお皿にはヴルストが二本と、切っておいたゆでたまご半分が増えていたけど、クララちゃんのお皿の中身はたいして減っていなかった。

「食べててよかったのに!」
「一緒に食べたいからいい」
「……そう?」
「牛乳は飲んだけどォ」
「あはは、ごめんね。食べよう」
「なまえ辛いの得意だったっけェ?」
「最近いけるようになってきた」
「……動画投稿者? とにかく激辛食えばいいと思ってるヤツ……」
「デスバーンが最近辛いの好きってだけだよ!」

 ひいひい言いながらも食べ終わったのはわたしよりだいぶ後だった。今日の洗い物はめずらしくクララちゃんがやってくれた。
テントを立てた場所からもわかってたけど、今日は帰るつもりはないようで、さっさとメイクを落としてしまっていた。泊まるのはいいけどノーメイクで昼間歩けるわけないとかなんとかで、朝の薄暗いころに絶対撤収するってのはめんどくさかったりする。でも、言わないでおく。
すっかり真っ暗になって、ぱちぱちと焚火の音が響く。そこそこ冷えてきて、火の近くではみんなが思い思いに転がっていた。

「眠いならテントの中で寝てよねェ。ボール戻る?」
「運ぶの手伝うよ」
「みんな重いから無理。戻す」
「デスバーンは外居る?」

 返事はなく、ぐるぐるとその場で回転して地面に突っ伏した。最近は人間の真似事が好きらしく、火の近くに行くし寝なくてもいいのに寝るふりをする。それきりぴくりとも動かなくなったデスバーンの横に座った。四匹はバシュ、と音を立ててボールに戻っていき、かわいいタオルの中で休み始めた。

「絶対今日のカレーで太った」
「ごめんって! なんか勢いで入れちゃった」
「なまえはそれで肉がつかないから良いよねェ」
「それを言われるとわたしは何もしゃべれなくなってしまいますが……」
「じゃあ黙って」
「…………」
「うそ。いつも作ってくれてありがと」

 テントを立てたりカレー作ったり洗い物したり、正直外での作業は結構めんどくさい。でも喜んでくれる誰かがいるからやれているということを思い出す。三角に曲げた膝からちらっと顔を出してにやりとするクララちゃんのことが好きだった。そろそろ本格的に寒くなってきたから、次はどっちかの家でご飯を食べようという話になった。次のキャンプはいつになるだろう。




201010