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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「首粉ふいてるよ。保湿剤塗ってあげよっか?」

 何か思い出しそうになったけど考えるのが面倒だった。なまえはボトルを振りながら俺に言う。

「臭いのは嫌だ」
「何個か種類あるよ、好きなのどうぞ」
「お前がいつも塗るのは?」
「今はこれ塗ってるけど、ヒヤッとするやつだから弔の首にはよくないかも。こっちは?」

 水色のボトルからクリーム色のボトルに持ち替え、フタを開けて俺の鼻の前に持ってきた。臭くは……ない。目を合わせるとなまえはにっこりと笑った。

「お風呂入ってから塗ろう。入浴剤わかる? あれ入れてしばらくお湯に浸かって。首は掻かないで、こすりすぎないようにね」
「一緒に入る」
「気分じゃない。まだやることあるし」
「入れ」
「……もお〜〜……わかったよ。着替え出してくるから先に行ってて」
「……」
「ちゃんと行くって!」

 なまえは嘘はつかない。数分後慌てたように風呂に滑り込んできて、俺の髪の毛を丁寧に洗ってくれた。白く濁った湯船にだいぶ長いこと浸かって、上がるころには死にそうになった。こんなの久しぶりだ、と渡された冷たい水を飲みながら思ったけど、やっぱり考えるのが面倒になった。

「続けたら乾燥も良くなるよ。これかなり保湿してくれるし、いる?」
「いらない」
「だろうね。顔も塗ろうか? 化粧水」
「……、いらない」
「そう。首、なるべく掻かないようにしてね、爪に引っかかって汚くなるから。嫌でしょ」
「うん……」
「爪きちんと切ってる?」
「切ってない」

 なんでなまえの小言が煩わしくないのかずっと疑問に思っていた。何度も何度も同じ何かを思い出しそうになって、でもそれは嫌で、ずっと見ないふりをしている自分には気がついている。
 弱い風でも、長い間当てられていたら体が冷える。風呂場を出てから渡された黒いシャツは姿を消していて、なまえは「新しかったら怒ってたよ」と言いながら灰色のシャツをくれた。右手の指先には塵の感触が残っていた。渡されたシャツを着て、頭に勝手に乗せられていたタオルを取る。

「こら! 掻いてるよ、ダメ!」
「……」
「そんな顔してもダメ。髪も乾いたからもう寝るよ」
「やることあるんじゃなかったのか」
「もういいよ。ほら寝よう、眠いんでしょ? 目ショボショボしてる」

 本当はなまえの隣では寝たくない。いつも同じ夢を見る。起きたらいるはずのなまえがいなくて、代わりに血に濡れたベッドだけが残っている。不快でならない。でも正夢になったことは一度だってない。その証拠になまえは今も目の前にいる。
 寝転がって電気を消された。おやすみとなまえは壁側を向く。携帯を触っているのか部屋は完全に真っ暗にはならない。今の自分にはそのことがありがたかったけど、それを変だとも思う。体からはなまえの匂いがしている。向きを変えて、なまえの首元に鼻を近づけると違う匂いがした。体の向こう、何度かタップしたあと画面は暗くなる。
 朝起きるとなまえはいなかった。血は、ない。首を掻くといつもの感触の代わりに濡れたような肌がそこにいた。爪には変なカスが引っかかっていた。



200801 お題箱より(ガリガリ首をかく弔くんに保湿剤を塗ってあげるお話)