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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -



方言がかなり変です これと同じ二人


 チリチリとセットしていた目覚まし時計が鳴りなまえは目を開けた。こんなに早く起きたのは久しぶりだ。太い腕から逃れるように体を、腕を伸ばして時計を止める。大きな欠伸をして、働かない頭を時間をかけることでなんとか動かし、それからのそのそと布団から抜け出す。きつく体を抱きしめられていたからか急には立ち上がれず、しゃがみこむ。布団のほうを振り向くと、さっきまでなまえを閉じ込めていた腕の主も目を開けていた。「おはようございます……朝ごはんは?」「食って出る」「できたら起こします」「なまえ」「なに?」「手ェ出せ」手を差し出すと、比べものにならないくらい大きくそして熱いくらいの手がなまえのものを包んだ。じんわりと熱さがうつってくるような気がしながら少し経ったころ、パッと離される。そのままサカズキは寝返りをうって反対側を向いた。なまえは、手のひらを握ったり開いたりしながら見られてないのをいいことにひとりにやけるのに忙しかった。
 朝食の支度を終えて寝室に戻るとサカズキはすでに起きて着替えていた。「あ、ごめんなさい」「良い」「そういえば昨日スーツ取りに行ったよ。クリーニング屋さんに久しぶりに顔見たって言われた」それはサカズキが全く家に帰ってないと言われるのと同じだった。その通りだから、サカズキは黙る。一瞬の沈黙があったが、別になまえは返事を期待しているわけではなかった。めずらしくネクタイをしていない、そして久しぶりな格好を見て、なまえは嬉しそうにニコニコする。「ご飯できたよ。朝ごはん久しぶり!」先日やられたばかりなのに何故また同じことを言うのか。黙っていれば無視したと思いながらきちんとなまえの頬をつねった。ひりひりする頬のまま、ふたりは食卓につく。食事中は基本喋らないようにしている。サカズキが米と味噌汁を二杯食べてもなまえは食べ終わらなかった。見送りだけはしたい、でもそのために途中で立つと叱られる。なんとか食べ終わり、久しぶりの朝食での腹の違和感には気づきつつも玄関に急ぐ。もうサカズキはなまえを待っていた。「食うたか?」「うん。でもなんか……お腹痛い」「普段食わんけえそうなる」大きな腕がなまえを引き寄せ、なまえはサカズキを見上げる。出会った頃からずっと変わらない怖い顔だが、自分のために向けてくれる表情があることも知っていた。「今日は遅うなる」「サカズキさんの布団で寝てていい?」「好きにせい」ぎゅうと抱きしめて、ちょっとだけ頬擦りしたらもう二人の時間は終わりだ。サカズキは仕事の顔に、なまえはひとりきりの顔になる。行ってきますは言われないから、行ってらっしゃいも言わないようにしていた。離れたなまえは手を振った。サカズキはそれをしっかり見てから玄関の引き戸を閉じる。すかさず施錠したら、ようやく赤いスーツは擦りガラスから遠ざかって行った。




200604