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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -



!プロヒーロー



「袋は別がよろしいですか?」

 カップのアイスを冷凍庫から持ってきてたずねてきた店員に、爆豪は疲労からか一瞬反応ができなかった。他に買ったものは濡れても問題ない物ばかりだったが、くじで当たったアイスは今の自分には必要ない。しばらくそんなものは食べてないし、これこら食べる予定もない。持ち帰ったとしても、今度は家の冷凍庫で眠ったままになるだろう。それならと思い立ち、袋は別にしてもらった。会計を終え外へ出て、スマホを取り出す。メッセージアプリの最後のトークは一昨日の深夜、なまえの寝落ちで終わっていた。フ、とネックウォーマーの下で爆豪は笑う。すぐにスマホはポケットにしまった。

 ボロのアパートに通うのは時間をかけて日常になった。セキュリティの緩すぎるところに住んでいるなまえのことはずっと心配だったがあまり口出しはしないでおいた。こうして家を訪ねることは嫌いではない。でも、そろそろ一緒に住んでもいいかもしれない。音を立てないようにしながら階段を上り、開けろと一言メッセージを送った後にインターホンを鳴らす。すぐに足音が扉一枚向こうから聞こえてきて「勝己?」と声をかけられた。返事をすると、そっと扉が開いた。

「わ、寒っ! 早く入って、わたしさっき風呂上がった」
「やる」
「なに? あ、……高いアイス!」

 上がるつもりはなかったが確かに風呂上がりの格好だったので、爆豪は中に入った。急に渡された白い袋の中身を見たなまえは、嬉しそうに顔を綻ばせる。その顔色はいつもより悪い。薄い眉毛を見たのは久しぶりだった。自眉が薄いのが嫌だと、なまえはいつもしっかり眉を書く。最近は外でしか会わなかったから、化粧をしてない姿はなんだか新鮮だった。顔を見るだけで良かったが、爆豪はひとり得した気分になる。そんな爆豪のことはつゆ知らず、なまえはニコニコした。

「上がる?」
「帰る。明日早ぇしな」
「わざわざありがとう」
「腹壊すなよ」
「壊さないよ!!」
「この前牛肉食った後すぐ腹痛い腹痛い言ってただろうが」
「お肉がお腹に合わなくなってきただけ! だいたい、アイスとお肉って全然違うし」

 よくわからない点で怒るなまえを無視して、肩を引き寄せる。スニーカーやパンプス、ブーツで溢れている玄関では爆豪のほうから靴のまま踏み出すことはできない。急に引かれてバランスを崩したなまえは、自分のスニーカーを踏みつける。それに怒ろうとしたときには目の下のところに爆豪の唇が触れていた。大きな手で肩を押され、元に戻る。なまえが目の下に指を這わせながら爆豪を見ると、もうその唇はネックウォーマーで隠れてしまっていた。またその下で爆豪は笑う。

「おやすみ」
「……お、おやすみ!」

 一緒に住めば毎日顔を合わせることになるだろうから、こうして顔が見たいという理由だけで通うことはなくなってしまう。それは少し寂しいが、必要な変化だ。いつまでもボロアパートに住んでほしくはなかった。を扉を閉めたらすぐ施錠しろという言いつけはきちんと守っているようで、すぐに音がした。いつのまにか疲労がなくなっているのに気がつく。時間はしっかりと消費したがそれ以上のものが得られたので、爆豪の機嫌はひっそりと良くなった。



200223