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教えてあげる


 鏡越しに目が合って、エースは歯を見せた。

「かわいい、かわいい。」
「本当?」
「いちいちそんなうそつくかよ。ちゃんとかわいいぞ。多分……なァお姉さん、かわいいよな。」

 エースに問いかけられた店員がにっこり笑って頷いたので、ようやくナマエの心にそれがしみこみ、照れとなって顔に現れた。


 いちばんの目的であるナマエの服の購入は、やっぱりいちばんに済ませることにした。エースの大きな上着と、アニマル柄のブーツはそれなりに目立つ。ナマエはそこまで気にしていなかったが、島に降りてふたりで歩いていると周りの人間からチラチラ見られているのに、エースが気づいたのだ。慌てて近くの女ものの服屋にナマエを押し込んだ。押し込んでから、女の服なんか少しだって知らないことを思い出す。ナマエの好みもわからない。慌ててナマエの顔を覗き込むと、困ったように眉毛を下げていたから、近くにいた店員の肩を掴んだのだった。
 選んでもらった服を試着したナマエが、ようやくエースの目には年相応に見える。あのブーツの柄がオヤジの趣味であることは知っているし、ひとの趣味にどうこう言うつもりはないが、あれはナマエには合ってない。ぺたんこのサンダルから、ナマエの丸い爪が見えていた。感激したように鏡をじっと見るナマエに聞こえないよう、エースは店員に耳打ちをする。頷いた店員は、どうですか? と当たり障りのないことを言いながらナマエが着ている服のタグを切った。ナマエは、それにまったく気がついていない。

「エース!」

 服屋の外で待っていると、怒った顔をしたナマエが飛び出してきた。そんな顔を見るのは初めてだったし、女の格好をしているのも初めて。服屋で見るのとはまた印象が違うと、エースにしては丁寧な感想を持った。

「おう。」
「お金……勝手にはらっ……払ってくれたの。」
「おう。」
「わたしお金……あるよ。きちんともらった。」
「知ってるよ、おれが小遣いもらってきたしな。」
「……。」
「妹にプレゼントする兄ちゃんくらいどこにでもいるさ。」

 ナマエは、ぽかんとした。

「妹?」
「そうだ。おれは白ひげをオヤジって呼んでるし、おまえはお父さんって呼んでる。」
「うん。」
「オヤジはおれたちのことを息子と娘だって言ってくれる。」

 はじめて父親に会ったときのことを思い出している。

「うん。」
「そんで先に船に乗ったのはおれで後はナマエだろ。」
「うん……。」
「じゃあおれは兄貴で、おまえは妹だ。家族だもんな。」

 ナース服より深く見えるナマエの胸元に痛々しい痣があることをエースはさっきはじめて知った。隠そうとはしていたから申し訳ない気持ちはある。きっと隠れている腹や背中にも、同じようなものがいくつかあるのだ。そして、オヤジが突然ナマエを拾った理由もなんとなく察してしまった。
 きっと知らないのだ。なにもかも。自分もそうだった、とエースは目を細めた。



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