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「それで?」
「わたしはクリーム絞ってプレートに文字書く係でした!」
「ほぼコックが作ってんじゃねェか」
「そうだよ、せっかくのケーキがわたしのせいで不味くなるのは嫌だもん。でもプレートは死守したから。ほら口開けて!」
 なにが、でも、なのか。
 朝からコックとキッチンにこもってずっと出てこなかった。飯を食いに食堂に行くと「ゾロは絶対キッチン覗かないで!」と叫ばれナミとウソップに爆笑される。どんな豪勢なモン作ってんだと思えば晩に出てきたのはスタンダードな白いケーキ……だが、コックと作ったにしては若干歪んでいた。夜、食堂は早々に大騒ぎで、切り分けたケーキを二個貰ったなまえがおれを甲板に誘って、今に至る。
「お前が食え」
「誕生日の人が食べるって決まりだよ。わたしも食べたし。まあまあ上手に書けてるでしょ? “ゾロくんおたんじょうびおめでとう”……はいどうぞ」
 口のそばまで差し出されたら食わない以外にはない。前歯で砕いて、残りを挟んだところでなまえに顔を近づける。意図に気付きなまえは不満そうな顔をしながら、欠けたプレートを口で受け取った。
「わたし誕生日じゃないんですけど」
「本人が良いっつってんだからいいんだよ」
 指で押し込み噛む音を聞いていた。しっかり閉じた食堂のドアからは少し声が漏れている。床に置いた皿の上のケーキにフォークを突き立てて口に入れる。嫌いじゃない甘さだった。
「また祝えてうれしいな」
「……」
「ゾロはうれしくない?」
「……さァな。ほら、食えよ」
 前に祝いの言葉をもらったのはメリーの上だった。サニー号じゃあ、初めてだ。なまえもケーキを口にして、んん、と笑う。すぐになまえの分は消えて、おれの残りを差し出すと遠慮もせずに全部食べられた。
「まだ食べたいけど、もう無さそう」
「次の誕生日まで待てばいいだろ」
「えーと次は……チョッパーか。甘いの好きだし譲ることになるかな?」
「じゃあ別でコックに作ってもらえ」
「うん。本当、なんでもおいしくてすごいよね」
「……そんなに甘いの好きだったか?」
「ん〜? 普通。でも、ここを離れたら、おいしいご飯は当たり前じゃないんだなと思った」
 汚れた皿を避けて足を伸ばす。酔ってんのか酔ってねェのか、小さい頭が肩に寄りかかる。なまえが酒を飲んでいたかは覚えてない。前は苦手でジュースばかりだった。
「来年もみんなの誕生日祝いたいな」
「……プレートもっとなんとかしろ」
「上手くできたと思ったんだけど……あれ結構むずかしいんだよ。ゾロは二文字だけど、チョッパーとフランキーはミスるとおめでとうまで書けなくなりそう」
「だァから練習しろっつってんだ」
「させてくれるかな? それも頼んでみる」
 手が絡む。柔らかいままかと思った小さい手は記憶より少し硬くなっていて、否が応でも二年の月日を感じさせた。それでもおれのとまるきり違うのは昔と同じで、今はそれがありがたい。真白い手の甲に唇を寄せる。なまえは何も言わずにそれを受け入れた。



191111 お誕生日おめでとう