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夢主の手持ちはゴースです



 大きな音を立てながら玄関の扉を開けたので、キバナの後ろにいたコータスが低い声で怒った。「わるい、わるい」それからはそっと動いた。土足厳禁というルールを決めたのはなまえだ。靴を脱いで、自分専用のスリッパに足を突っ込み、外を歩いてきたコータスの汚れた足をタオルで拭く。甲羅を撫でてやったら満足そうに鼻から煙をすこし出し、のしのしとリビングに消えて行った。それを見送ったあと、キバナは寝室に向かう。ふくらんだ布団をみとめ、キバナは笑みを深めた。そっと近づいて頭までかぶった毛布をめくると、モンスターボールをひとつ握って静かに寝息を立てているなまえがいた。キバナが遅くかえった日のたのしみは、これだ。なまえは決して寝顔を見せない女だった。どんなに疲れていても、ねむくても、ぜったいにキバナの前で寝ることをしなかった。頬をつねり、自分のポケモンに寝ないように見ていてと頼んだ。キバナはそれがおもしろくなくて、どうしても見たい! というわけでは無かったのに意地になって、それなりに時間をかけてなんとか同棲までこぎつけたのだ。いっしょに住めば寝顔なんて見放題、というキバナの思惑は大当たりだった。やわらかい頬にちょんと指をすべらせても、当然なまえはなにも言わない。ポケットからスマホロトムを出して、小声で撮ってくれと指示をした。背でロトムが笑い、音を立てないようにしながらそっとなまえの顔を画面にうつし、キバナは手元の電気を付けようとした。が、それはなまえが握っているボールの中にいるポケモンによって阻止される。体は闇にまぎれているが、目はギョロリとしてキバナとロトムをとらえた。「……悪かったって。本当、いつもいつもいいナイトだよなあ」ひらひらと手のひらをこちらに向けてくるキバナを見て、ゴースはフンとして顔をそむけ、さっき指が滑った頬にすり寄った。中身のないボールを握りなおすなまえにキバナはほほえむ。「寝顔は見れるようになったけど写真は相変わらず撮らせてくれねえのな」ゴースににらまれたロトムをポケットにしまう。なまえは自身の写真を撮らせてくれない女でもあった。あたりまえだがポケスタに投稿するわけではなく、単純にキバナ個人が恋人の写真を欲しがっているだけなのだが、撮らせてくれない。ロトムと共に数枚は頑張ったものの、勝率は低いままだ。なまえとゴースは、ガードがとても固い。今日も無理そうだ、とキバナはあきらめることにした。かわらずキバナをにらみ続けるゴースを撫で、なまえの額にキスを落として毛布をかけなおす。こうしている時間もわるくないが明日も予定が詰まっていた。キバナが寝室から出て行こうとするのを見て、ようやくゴースがボールに戻っていく。
 リビングではコータスがうとうとしながらキバナを待っていた。主人に気づくと首をゆっくりと伸ばす。それを見てキバナは眉を下げた。「まーたダメだった! いつになったらお前に成果を見せられるんだろうな」いつも冷たく拒否されているのにあきらめない主人を、今日も失敗だったとロトムと一緒にしょげているようすを、ポケモンたちがなんだかんだ楽しく見ていることをキバナは知らない。



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