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 着いた島は冬島出身の多いハートのクルーたちもさむいさむいと弱音を吐くほどの極寒の地だった。なまえは夏島の出で、寒さにひどく弱く何度も体調を崩した実績があり、こういう島に到着するとローから外出を禁止されるようになった。いつもならばすぐに船を出て島をうろつくくせのあるローも、一日目だけは船に残りなまえといっしょにいるようにしていた。
 そんなわけでいま二人がいるのはポーラータング号のうえ、ローの部屋だ。自分の毛布を持ち込んでローのベッドの上で寝ても、あついお茶を持ち込んでも、今日ばかりは何も言われない。そういう意味では、なまえはけっこう冬島が好きだった。
「“クリスマスマーケットやってますよ! 海からじゃ分かんなかったけどすげェ活気のある島みたいです。ベポはどっか行きました”」
 こちらに連絡をするようローが指示したわけでもなく、ペンギンたちは自然にローの電伝虫にかけて、島のようすを伝えた。とくに返事はせずローはじっと聞き、そしてなまえはいいないいなと羨ましがっている。海軍はおらず、ログは四日でたまるみたいですと言った後、ペンギンはじゃあ買い物してきますねと残して切った。
「いいな〜〜」
「……明後日まで体調崩さなかったら出してやる」
「え……本当?」
「ちょうどマーケット終わるだろうしな……少しでも鼻水垂らしたらナシだ」
「鼻にティッシュ詰めるよ! 約束ね!」
 解決方法になってないことには突っ込まずローは静かに頷き、それを見てなまえはニコニコした。
「クリスマスってはじめて! いい子にしてた子どもにはサンタクロースっていうおじさんが来るんでしょ?」
「いくつだテメェは」
「わたしの住んでたところにはない文化だったから、本とかでしか読んだことなかったの。ローのところはサンタクロース、来た?」
 ローにとってそれは、わすれてはいないがわすれたいことのひとつだ。サンタクロースの正体には知っていても妹が信じているから話を合わせたり、それこそ家族でマーケットに行ったり、そうやってクリスマスのことを考えていると、もっと他のことも思い出してしまい、顔は曇った。
「……どうだっただろうな」
「ひみつ?」
「そういうことだ」
 話したくないことなのかもしれないと思い、なまえはあわてて口を閉じた。ローとしゃべっているうちに乱れた毛布を直そうとひろげると、途端に冷気が体をつつんで、なまえはおおきくくしゃみをした。その音にローはなまえのほうを向き、あきれた顔をする。なまえの鼻から鼻水が垂れた。
「……」
「…………」
 鼻水を感じたあとにローと目があい、それからゆっくりと鼻をかんだ。ローの決定が並大抵のことではくつがえらないのを知っているから、ごまかしたりしない。また毛布を直して寝転がってくるまり、ローの視線を受けつづけることにした。ティッシュは詰めず、すぐにかめるよう顔の横に置いた。
 もうなまえはあきらめてしまったが、ローはけっこう、いやかなりご立腹だった。なまえが寒さに弱いのは知っているし、ローの出した条件はなまえにはきびしい。結局無理なのだろうとは思っていたが、まさかものの五分程度でデートの約束がなくなるとは思わなかったのだ。行きたい行きたいとごねられるのも面倒、でもすなおに黙られるとそれはそれでつまらなかった。ローは読んでいた本を閉じ、ベッドに近づいてなまえの首元をさわる。なまえは顔をあげた。
「昔、家族でマーケットに行ったときにホットチョコレートを買ってもらったことがある」
「……うん」
「つくってやる」
「!」
 ぱっとかがやくなまえの笑顔に、自分の対応はまちがってなかったらしいとすこしだけローは安心した。もうそこには曇った表情やあきれた顔は、のこっていない。




191224 メリークリスマス!