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「よ!」
「なんでいるの」
「相変わらず厳しいなァ〜」
「くじらの船は朝方出て行ったはずだけど」
「そォ〜なんだよ、置いていかれちまった」

 海賊に気に入られてしまった。しかもその辺のよくいるやつではなく、やばい海賊団に所属している、もちろん手配書も出ているようなやつだ。とんでもない額だ。体が炎になる、それを聞いたときはなに言ってんだろうと思ったけど、庭に置いていた高枝切り鋏を持たされ、それで突くように手を掴んで動かされたときは人を殺してしまう! と本気で焦ったものだ。結局死ななかったし傷ひとつもついてないし、鋏があつくなっただけだったけど。

 白ひげの大きな船はとっくの昔に出て行ったし、きちんと見た。それなのになぜエースはまだここにいるんだろう、と取ってつけたような疑問はあるけど、ほんとうは理由を知っていた。

「泳いで追いかけたら?」
「無理だ、おれはカナヅチなんだ! 見ただろ」
「いばるな。船買って漕いだらいい」
「まーそれもいいけど、そもそも出て行けないからなァ」
「……」

 おれと来ないか? と初対面の第一声でエースはそう言った。なに言ってんだろうと、そのときも思った。いつもいつも新聞をにぎわす大きな海賊が自分の住む島に来たという騒ぎだけでとんでもないことだったのに、なんでこんなことになってしまったんだろう。そのあとエースは「一目惚れした」と言って腕を引っ張ってきて、やっぱりなに言ってんだろうとわたしは思った。
 振り払っても振り払えず、家を知られてそれからはずっとエースはたずねてきた。家にたいした金目のものはなく、何を取られるんだと焦ったりしたけどエースは一度も家の中に入ってはこなかった。庭の花は荒らさないし、なんなら勝手に雑草を抜くし、この花はなんだなんだとうるさい。それが一週間続いて、見えていた大きな船は去って、普段に戻ると思ったのにエースはまた庭にいる。
 エースの欲しいものはお金などではない。それを手に入れるまでここから出て行くことはなさそうだとなんとなく感じていた。

「本当に早く行かないと置いていかれるよ。もうすぐ天気が悪くなる時期だし」
「へえ? そんなんあんのか」
「毎日雨になる。水ダメなんでしょ?」
「雨とかシャワーはいいんだ」
「……濡れても燃えるの」
「ンー燃えはするけど燃えにくくなるなァ」
「だから早く行ったほうが良いって言ってる」

 ハハハ確かにと爽やかに笑ってはいるものの、行く気はないのだろう。エースがこの島を出るときは、そこにわたしもいるのだ。もう抜きに抜いてしまって少しも生えてない雑草を探し、エースの手が汚れるていくのをデッキから見つめる。
 このままはぐらかされて今日を終えるいつもどおりを想像したけど、エースはそれをしなかった。

「それが本当ならぼちぼち出ねェとな」
「……是非そうして」
「な、おれと来てくれ」
「……。犯罪者になれって?」
「まァ〜そういうことになるな」
「嫌」
「船じゃ花育てらんねェからか?」
「それもあるけど犯罪者のくだりをもっと指摘してほしかった」
「他にも理由あるってことか? なんだよ! 教えろ」

 勝手にホースの水で手を洗い、ズボンで拭いてからデッキに来た。どかりと隣に座り、覗き込むようにしてわたしを見る。

「新しい人間関係を作るのが嫌」
「……ハア〜〜〜??」
「20年以上生きてきてようやくいい感じになってきたのに、それをパッと捨てて海賊船には乗れない」
「一週間前に初めて会ったおれとはすぐ仲良くできただろ!」
「エースが無理やりついてきたんでしょ!! 無視してもずっと話しかけてくるし」
「そうだったな」
「大体船に女乗せるのってどうなの」
「結構乗ってるぞ。船医がナースチームなんだウチは」
「それは船の仲間でしょ。なにも関係ない人のことを言ってるの」
「乗ってくるけどすぐ降りる」
「……」
「ヤベッ」

 わたしの未来の姿を、誘ってきたエースから教えられるのは最悪だった。でもわたしもそう思って聞いた。結局そんなものなのだろう。わたしは犯罪者にはなりたくないし、エースのように体が燃えたりもしないし、戦えない。ちからにならない。もし仮に乗ったとしてエースの機嫌をそこねれば、わたしはきっとその場で海に捨てられてしまうのだ。想像できてゾッとした。カナヅチではないけど海の真ん中で捨てられたら流石に生きれないだろう。
 うだうだ考えてはいるけど簡単に想像できてしまうあたりからわたしの心は決まっていたのだと思う。

「……」
「でもっ……でもみんな良い奴らだぞ。家族なんだよ」
「知ってるよ、何度も聞いた」
「なァダメか?」
「本当にダメならすぐに海軍に突きつけてる」
「おォ待て待て海軍いんのか? 気づかなかった」
「そうじゃないでしょ!! バカ」
「?? なに怒ってんだ」
「エース……わたしのことどう思ってるの」
「それも何回も言っただろ。好きだよ」
「……海賊は、欲しいものはなにがなんでも勝手に取ってくと思ってたんだけど違うの」
「それが金とか食い物とかなら問答無用で奪うさ、でもおれが欲しいのは物じゃなくて人なんだよ」
「……」
「心がついてこないとほんとうにおれの隣にいてくれることにはならないだろ。大事にするよ、きちんとオヤジにも紹介する、危なくなったらおれが守るし船は一度乗ったらおれが降りさせない。花壇が欲しいならどうにかするし、ニンゲンカンケイなら間におれが入って、それから仲良くなったらいいだろ?」

 大事にはしてくれそう、そのオヤジさんには紹介されないと乗せてもらえそうにないからするだろう、危なくなったら守ってくれるのはほんとうだろう。花壇はこうは言ってるけどむずかしそうだし、人間関係については正直なにも期待していない。わたしにいい条件なんてひとつも無いんじゃ?
 一生懸命に身振り手振りでメリットを説明している顔を見つめる。胸にやどったこれは気のせいなんかではないのだ。一週間ずっと庭にいるエースを見て、話を聞いて、20年生きてきてはじめて自分のちょろさに気がついた。あとはあとは……と指折り数えているがもう思いつくものはないらしい。「待て! まだあるから」膝の間に頭を押し込んでウンウン唸っているエースの、鍛えられた腕をちょんと触る。なんだよと眉を下げたその目尻のところにキスをした。ポカンとして、なにが起こったのかわからないエースがなんだか間抜けで面白い。





191213 あなたとずうっと生きるすべ(へそ)