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 ガーというおおきな声で目が覚める。スマホロトムに声をかけても起きない時間だということは、部屋の暗さでわかった。枕もとで伏せているロトムを、なまえは自分で手に取った。背中のロトムは目を閉じていて、ムニャムニャと言っている。明るくなった画面は朝5時をしめしていた。とんでもない早起きだ。
「早くない?」
 そう言って起きあがり、なまえの手は足元にいるアーマーガアをなでる。すこし夜更かしをしたからまだまだ眠く、とても目が開いてるとはいえないほどにショボショボしていた。対照的に、もうアーマーガアはしっかりと目が覚めている。それに気づかず、なまえはアーマーガアの大きな体に自分の体を預けて、目を閉じた。
「もう少し寝せて……」
 ロトムとおなじようにムニャムニャしながら言うと、またおおきな声で鳴いた。それを何度か繰り返され、なまえはもう寝るに寝れず、次にきちんと目を開けたときは6時になっていた。ロトムはいつもの時間なので、起きた。
 どうして朝の眠い時間って、こんなに時間が過ぎるのがはやいんだろうか。なまえは起きるかあ、と胸のなかだけで無意味に宣言し、アーマーガアをギュッと抱きしめた。そのままひとしきり頬擦りをしてからベッドを降り、買ったばかりのもこもこしたワンパチスリッパに素足を入れて、パタパタと音をたてながらキッチンに入った。アーマーガアはこれからを予想できて、ひっそりいやな顔をする。
「朝ごはんは……、カレーです」
 なまえの周りをフワフワとうろつくロトムも、いやな顔をした。アーマーガアの顔は見ていなかったなまえは、ロトムの顔を見て何よ、と眉を寄せた。
「でも大丈夫、これで終わりだから。も〜しばらく作らない」
 ガラルに住んでいてカレーを食べない者はいない、人も、ポケモンも。当然なまえとアーマーガアも食べるし、好きだが、何日もそれが続くとさすがに飽きる。調子に乗って作りすぎた数日前の自分をうらみながらも、今日までカレーをひたすら食べ続け、今日の朝食でそれは終わる。長かった。
「チーズ乗せる? 卵茹でてもいいよ」
 冷やご飯をよそいながらなまえがアーマーガアに聞いた。ベッドを覗くと、おおきく首を振っているのが見える。飽きた飽きたと不満げなのに、じゃあちょっとアレンジしようかと提案するとそれは別にいいと言うのだから、よくわからない。二つの皿の片方にだけチーズを乗せてレンジに突っ込む。顔を洗うために、なまえは洗面所に向かった。
「今日からナックルシティの靴屋がセール」
「えっ? 今日だった?」
 濡れた顔を向けられて、ロトムは慌てて避けた。そしてまじめなロトムは言われずとも靴屋のサイトを表示し、なまえに見せる。そこには今日からセールだと大きく載っていた。なまえは最近潰れて汚れてきたスニーカーを思い出す。新しいものが欲しくなって目をつけていたセールをすっかり忘れていた。
「ヤバ、混むかな」
「10時開店」
「なあんだ余裕じゃん。今日アラーム設定してなかったよね? 危なかった〜」
 化粧水を適当に顔に馴染ませ、リビングに戻ると、温め終わったカレーの匂いが広がっていたから窓を開けた。ベッドに座ったままだったアーマーガアが歩いてテーブルの前につき、なまえがその前にカレーの皿を置く。アーマーガアは大きくため息をついた。いただきますとなまえが挨拶をすると、アーマーガアとロトムはそろって頭を下げた。温まったカレーにチーズが絡んで、昨日とはまた違った味わいではあるものの、食べるスピードが露骨に落ちるくらいには、飽きていた。
「今日なんで早くに起こしたの? カレー残ってるしお腹空いてたわけじゃないでしょ」
 なまえと同じくのろのろとカレーを食べていたアーマーガアが顔を上げる。なまえの疑問はもっともだった。普段のアーマーガアは、早くに起きるどころか放っていたらいつまでも眠りつづけるようなねぼすけだからだ。でも今日は、なまえの言っていたセールの日だということを覚えていたから、はりきって早朝になまえを起こした。なまえがロトムにアラームを頼むのを忘れていたのも、ちゃんと見ていた。
 しかし、なまえのロトムはまじめで優秀だ。なまえの予定はメモしてと言われなくてもきちんと覚えているし、頼まれなくてもアラームは設定している。今日もそのつもりだったが、昨夜なまえが風呂に入っているときに「自分が起こすからアラームは設定しなくていい」とアーマーガアに言われたので、起こさなかった。ちなみに、ねぼすけのアーマーガアを知っているから、朝いちばんにガーと鳴いたときもロトムは一応起きていて、寝たふりをしていた。
 嘴にカレーをべったりつけて、小さく鳴く。それが何という意味なのかはなまえにはわからない。ロトムは黙っていた。もぐもぐと口を動かしながらアーマーガアが何と言っているのか考えているなまえを、2匹はじっと見つめる。
「……わかった、昼ごはん外で食べたいんでしょ! わかるよ、家にいたら体がカレーになりそうだしね」
 全然そうじゃないので2匹は呆れたようにして目を合わせた。そのようすになまえは首をかしげるも、最後の一口を飲み込んでから笑顔を向けた。
「今日ナックルシティ連れてってくれない? セールがあってさ。それで、帰りに昼ごはん食べて、おやつも買って帰ろう。たしかカントー地方で流行ってるジュースのお店来てるよね? ちょっと前にキバナのポケスタに投稿されたやつ!」
「“タピオカミルクティー”」
「それそれ、なんか丸いのがいっぱい入ってて、オシャレ女子はみんな飲んでるらしいから飲んでみたくて。ふたりはなに食べたい?」
 アーマーガアはいつでも何度でも、大好きななまえなら背中に乗せてどこへでも連れて行くが、なまえが律儀に毎回お願いするので、言われたら頷くようにしていた。ありがとう! となまえが手を伸ばして頭を撫でると、ロトムに早く準備しろと急かされ慌てて立ち上がった。アーマーガアのカレーはまだそんなに進んでいない。食べ終わるのが先か、準備が終わるのが先かは、優秀なロトムでも当てられそうになかった。




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