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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -



「お腹空いたね」
「うん」
「回転寿司とかどうですか?」

 お姉ちゃんはそう言って回転寿司屋さんの駐車場に車を停めた。預かってもらっていた帽子を受け取って深くかぶる。お店の入り口すぐのロボットの胸についているパネルの「二名」のところをタッチしたら、すぐに案内してもらえた。平日の三時前、なんとも言えない時間に人はまばらにしかいない。帽子、いらなかったかも。
 
「やっと一息つけるね。今日忙しかったでしょ」
「普通くらい。お昼ごはん食べられなかったのは、きつかったけど」
「ごめんね。お寿司で良かった?」
「うん……」
「なんでも食べていいからね」

 あまり回転寿司って来たことないから、そんなこと言われてもどうしたらいいか分からない。黙ったままでいると、お姉ちゃんはにっこりした。

「お水持ってこようか。あったかいお茶がいい? ジュースもあるみたいだよ。あっ、先にパネルで注文しよう」
「……桃子、たまご食べたい」
「たまごね。わたしはね〜、納豆巻とえび」
「お水、取ってくる。お姉ちゃんもいる?」
「うん、お願い。わたしお茶淹れるね、桃子もいるでしょ?」

 向かいの席のお姉ちゃんの頭の向こう側、給水機の表示が見える。急いで取りに行って戻ったら、もうお醤油のお皿とお箸が用意されていた。レーンから一皿取ったみたいで、手をつけられずにテーブルに置かれている。

「お姉ちゃん、はい」
「ありがと! お茶熱いから気をつけて。茶碗蒸し頼む?」
「頼む……」
「はい、二つね。お寿司は好きに取ってね」

 本当にお腹が空いていたみたいで、頂きますと手を合わせたらすぐお姉ちゃんの口にどんどんお寿司が吸い込まれていった。注文していた納豆巻とえびとたまごが届いて、茶碗蒸しも届いて、桃子も食べる。空っぽのお腹にお米は嬉しかった。さっきお姉ちゃんがパネルを操作したのを見たから、次は自分で注文したし自分でレーンから取った。
 なんだか、悪いな、と思う。平日にお仕事の関係で学校を休むことが頻繁にあるわけじゃないけど、みんなが学校に行ってるのにこうして外でご飯を食べている。でも、この特別感がちょっとだけ嬉しい。行ったことのないところに行くのは、楽しい。お姉ちゃんとのお仕事は、楽しい。

「美味しい?」
「…うん、美味しい」
「わたしも最近コンビニばっかりだったからお寿司美味しい」
「お姉ちゃん、自炊は? 始めたんじゃなかったの?」
「時間なくて」

 お姉ちゃんのお茶はもう二杯目だ。桃子は、何皿目だっけ?

「あのさ、桃子」
「何?」
「流石にお昼食べれないのは問題だな〜と思って」
「……仕方ないでしょ。いつも食べれないわけじゃないし。今日だけだよ」
「お腹空いたって思いながらお仕事できなくない?」
「そうかもしれないけど」
「育ち盛りだからさ、食べたいときに食べてほしいの」
「……うん」
「わたしはもう体が大人になることはないから、そのときに食べなくても後で食べれば別に良いんだけど。桃子は」
「うん」
「桃子だけじゃなくて、育も環も、みんなだよ。きちんと食べてほしい」
「わかってる。でも、我慢しなきゃいけないときは我慢するよ。その代わり、またご飯連れてって」

 なんとなく目を合わせられなくて、返事をしたくなくて、すぐにお寿司を口に入れた。必要以上に噛んで飲み込んだ後、ちらりとお姉ちゃんをうかがう。細くなった目が桃子を見ている。こうやってお姉ちゃんは、いつも桃子のことを心配してくれる。言ったことはないけど、それがうれしい。桃子の仕事だけを見ているわけではないから、ずっと一緒にいることはできないけど。

「デザートはいらない?」
「……ケーキ屋さんのシュークリーム」
「いいね! 多めに買って事務所の冷蔵庫に入れよっか」

 お姉ちゃんともっと仕事したいな、と考えてるのを、いつかお姉ちゃんに言えたらいいな。







190115 手をつなぎたい